「GSにあらずんば…」 政権泳ぐ巧みな「処世術」 トランプ氏と蜜月にやっかみも
米金融大手ゴールドマン・サックス(GS)が「わが世の春」を謳歌している。トランプ次期大統領が経済ブレーンにGSの首脳クラスを相次ぎ登用しており、注目度の高まりと合わせて、業績も絶好調。あまりの新政権との「蜜月」ぶりに、ついやっかみの声も聞こえてくるが…。
「トランプ氏を支える『GS3人衆』」
金融界では最近、そんな言葉も聞かれ始めた。3人衆とはトランプ氏が新政権に登用したGS幹部クラスの出身者のこと。まず財務長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏はGSでは17年間務め、退社後はヘッジファンドなどを創設した。ハリウッドでも投資し、「ハドソン川の奇跡」など話題作に携わったことでも話題を集めた。
商務長官に選ばれたウィルバー・ロス氏は世界各地で企業再生に携わり、「再建王」の異名を持つ。日本でも幸福銀行(関西アーバン銀)を買収し、知日派としても知られている。
そして、大統領の経済政策を立案する国家経済会議委員長に指名されたゲーリー・コーン氏は、GSでも社長兼最高執行責任者(COO)の肩書を持つ現役バリバリの首脳だ。
さらに「おまけ」ではないが、ホワイトハウスの首席戦略担当兼上級顧問に就くスティーブン・バノン氏もかつてGSで勤務。ムニューチン氏の父親も元GS幹部というGS一家だ。
現GS首脳のコーン氏については、ロイド・ブランクファイン最高経営責任者(CEO)の有力な後継候補とみられていただけに、ウォール街では驚きの声が上がった。トランプ氏は「ビジネスマンとして大成功した。その才能を米国民のために役立ててくれる」と声明で絶賛している。
GSは肝心の業績の方も好調だ。2016年7~9月期決算は最終利益が前年同期比より47%増加し、20億9400万ドルだった。債券などのトレーディングが好調で、レバレッジや自社株買いも活用し、業績をぐっと押し上げた。
株価もこのところずっと上り調子にある。堅調な業績に加え、トランプ氏が実施するとみられる減税や大規模な景気刺激策が企業の資金需要を膨らませることへの期待、さらには今回のGS幹部重用人事による注目度の高まりと、「トリプルメリットの相乗効果」(米銀エコノミスト)が買い注文の拡大につながっているようだ。
首脳まで政権に送り込んだGSの存在感がウォール街で一段と高まりそうで、米銀関係者が「GSにあらずんば…とならないことを祈りたいよ」と肩をすくめるのもうなずける。
GSへのやっかみを“助長”することになったのが、GS幹部がこぞって保有する巨額資産だ。米メディアによると、コーン氏の場合は自社株が2億ドルを超すとされ、利益相反を避けるために政権入りする前に売却するとみられる。
ただ、トランプ氏はGS以外にも金融界出身者を登用している。さらにいえば、トランプ氏は選挙戦で、銀行と証券の分離や課税の強化を示唆するなどウォール街批判をしていたことも奇妙に映る。トランプ氏の属する共和党は伝統的に金融規制に慎重で、民主党は規制強化に傾く。
これについて、ある金融関係者は「GSはしたたかだ。共和党のみならず、民主党が後ろ盾となる政権とも上手に付き合い、あのリーマン・ショックもくぐり抜けた」と解説する。たとえば、民主党クリントン政権のロバート・ルービン氏、共和党ブッシュ政権のヘンリー・ポールソン氏はいずれも財務長官を務めたが、ともにGS内で会長として君臨していた。
GSの永遠のライバルであるモルガン・スタンレーとともに、生き馬の目を抜くウォール街をサバイバルしてきた「処世術」は伊達ではない。
もちろん、トランプ氏が経済政策でつまずけば、それはGS3人衆への批判に直結し、母体となったGSのブランドにも陰りが差すことになりかねない。政権にあまりに近寄ったGSへの風当たりも今後強まる可能性がないとはいえない。
GSカラーに染まったトランプ政権の経済運営と金融政策はなにかと注目を集めることになりそうだ。(柿内公輔)
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