安倍首相、公共データ開放を指示 「眠れる資産」生かせるか

 
未来投資会議で挨拶する安倍晋三首相(右)=19日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)

 安倍晋三首相は19日開かれた未来投資会議で、政府や自治体が持つ公共データを民間企業に開放する制度整備を進めるよう関係閣僚に指示した。平成32年までを「集中取り組み期間」と位置付け、政府のIT戦略本部の下に、司令塔機能を持つ組織を設置。ベンチャー企業などのニーズなどを把握した上で、重点的に取り組む優先分野を選定する。

 「交通」「医療」など、官公庁や公共団体が持つ膨大なデータを民間企業が無償で自由に使えるようにする。民間企業が保有するデータを含め、社会全体でビッグデータの活用を促す検討につなげることも想定する。同会議の有識者らの提言を踏まえた措置だ。

 また、首相は空港や上下水道など、公共インフラの民間開放も進めることも指示した。その一環として政府は、仙台空港など民営化された公設空港の国内線ターミナルで、保安検査場を通過した先にある搭乗待合室などの保安区域に、見送りに来た家族やガイドも入れるよう規制緩和する検討に入った。早ければ29年にも「空港保安管理規定」に新たなルールを盛り込む。行動範囲を広げて利便性を高めることで、空港利用者の増加を図る。

     ◇

 19日の未来投資会議で、首相が政府や自治体のデータ開放に向けた制度整備を指示した背景には、使われていない「眠れる資産」(政府関係者)と化した膨大なデータを、民間企業のイノベーション(技術革新)につなげ、日本経済の成長力を強化する狙いがある。米英などでは官民挙げて環境整備を進めている。国際的な公共データの開放施策で後れをとれば、日本は「第4次産業革命」に乗り遅れかねない。

 首相は会議で「インフラとデータを徹底的に開放し、官民の力を結集して新たな有望市場を作り上げる」と述べた。首相の指示は自民など4党による議員立法の「官民データ活用推進基本法」が今国会で成立、施行されたことを受けたものだ。

 同法は官民が保有するビッグデータをだれでも自由に使えるようにする「オープンデータ化」が柱。政府はまず「官」のデータ開放に着手し、国、自治体ごとに異なる情報システムの規格統一や互換性の確保などを検討する方向だ。

 政府が危機意識を抱いているのは「交通」「医療」「防災」「経済統計」など官が持つ膨大なデータを、民間企業が自由に使えないからだ。活用が進めば新たな事業創出に活用できる。

 海外では先行して取り組みが進む。米国では2013年にオバマ大統領が政府情報のオープンデータ化を義務づける大統領令を出した。こうした動きも、政府の危機意識を高める要因になっている。

 日本では20年の東京五輪がひとつの試金石となる。未来投資会議に参加した有識者は訪日外国人客を念頭に、渋滞情報を活用した「ナビアプリ」の開発を提案した。政府の“旗振り”が技術革新を成長につなげる鍵だ。(山口暢彦)