TPP米離脱後の影響 有識者に聞く「アジア経済連携でまとまる好機」
米国のドナルド・トランプ次期大統領は、就任後に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱する方針を明らかにしている。その影響などをシンガポール国立大リー・クアンユー公共政策大学院のダニー・クワ教授に聞いた。ダニー・クワ教授は、米国がTPPから離脱すれば、アジアの国々が東アジア地域包括的経済連携(RCEP)でまとまる好機だと主張。米離脱後、アジアを中心に形成される新たな国際秩序の一つとなるとの考えを示した。
--米国がTPPを離脱する影響は
「米国が抜けたとしてもTPPのルールを変えてRCEPに取り入れれば、アジア地域にとって有益な貿易システムを確立できる。環境保護や労働に関する基準を満たせず、TPPに参加できなかったラオスのような比較的貧しい国々も加われる。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日中韓インドなどの6カ国で仕組みを作れば、TPPより受け入れられやすくなる」
--米国抜きのシステムでもいいのか
「米国が世界のさまざまな分野から手を引いた後、アジアを中心に形成される新たな国際秩序の一つとなるだろう。シンガポールの場合、中国と香港への輸出は米国向けの4倍、マレーシア向けも2倍に上る。米国への輸出に依存しているわけではない。中国も内需重視に移行しようとしている。米国は世界経済の中心ではなくなり、アジアは域内貿易で自己充足型の地域となる」
--アジア地域の安全保障面に懸念は
「米軍が撤退すれば、アジアで最も強力な2カ国(日本と中国)の軍拡競争が進むことになる。両国は歴史的な背景に加え、一部で強い愛国主義的な感情が育ちつつあり、非常に危険な状態になる。ただ両国が互いに重要な貿易相手となれば、安全保障の小さな事案に気をもむ必要はないと気付くだろう。RCEPが成立すれば、中国も国際社会で自信を持ち、落ち着くのではないか」
--トランプ政権誕生で世界はどうなるか
「『分割された世界』となるだろう。米国と、欧州連合(EU)離脱を決めた英国が存在感を失い、世界は不安に陥る。日中とASEANが協力し、せめてアジア地域では安心できる新たな秩序を築くことを願う」(シンガポール 共同)
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