「ふるさと納税」普及加速 本マグロ1本、ヘリ遊覧… 高所得者ほど有利な問題点も
応援したい自治体に寄付すると所得税や住民税が控除される「ふるさと納税」の普及が加速している。これに伴い、自治体からの返礼品も本マグロ丸ごと1本などの豪華な品から東京上空のヘリコプター遊覧など多種多様になってきた。しかし、高額な返礼品による寄付金獲得競争や、高所得者ほど得をするなどの制度の問題点も指摘されている。
「新鮮な養殖本マグロを1本、ご希望の場所で解体します」。長崎県松浦市は、200万円を寄付すると本マグロ1本を返礼品として提供している。希望する場所(西日本限定)でマグロの解体ショーが見られるサービス付きだ。
同市政策企画課ふるさと納税・魅力発信室の金子英樹室長は「地元の特産品で、目玉の品にもなるということで始めた」と説明する。
ふるさと納税は自治体に寄付すると2000円を超えた額が住民税や所得税から控除される制度。都市部に集中する税収を地方へ分配し、地域活性化につなげる狙いで2008年にスタートした。多くの自治体が返礼に特産品を送り始めてから利用が拡大した。
寄付金のクレジット決済や返礼品選びが簡単にできるふるさと納税のポータルサイト事業には近年、ソフトバンクや楽天などインターネット企業のほか、日本郵便やJTBなど異業種も相次いで参入。制度が利用しやすくなってきている。
総務省の統計によれば、寄付額は14度で前年度比2.7倍の389億円、15年度は同4.3倍の1653億円と急増している。
ふるさと納税をめぐっては、地元の産業と関係性の低い家電や商品券などで寄付金を集める自治体が続出し、総務省は今年4月にこうした返礼品の自粛を求める大臣通知を出した。
神戸大大学院の保田隆明准教授は、ふるさと納税の問題点として「高所得者が得をする不公平な制度になっている」と指摘する。高所得者ほど寄付金額の上限が高く、軽減される税額も大きくなる仕組みだからだ。返礼品の提供や内容は自治体の自主性に任されており、寄付金額が高いほど返礼品も高価になるケースが多い。
最近は実際に自治体に来てもらい、普段は体験できないサービスを提供する自治体も増え始めた。静岡市は動物が寝ている動物園のバックヤードの視察ツアー、福岡県苅田町は消防士体験を提供している。
だが、返礼品の換金も禁止されておらず、総務省が注意しても「換金しやすい返礼品を出す自治体がなくならない」(保田氏)のが実情という。
問題点の解決のためには法改正も含めて議論する必要がありそうだ。(大坪玲央)
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