【米大統領選】ウォール街に広がる不安 読めない手の内 規制強化への警戒も
【ワシントン=小雲規生】米大統領選で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利したことで、ウォール街には不安が広がっている。具体性に欠けた変革を強調してきたトランプ氏は、オバマ政権の継承を打ち出す民主党のヒラリー・クリントン候補よりも遙かに手の内が読めない相手だからだ。トランプ氏は連邦準備制度理事会(FRB)への批判や金融業界への規制強化も口にしており、米国経済の不確実性は一気に増したといえそうだ。
「フロリダ州の票がカウントされるたびに株式先物市場が動く」。独保険大手アリアンツのモハメド・エルエリアン氏は大統領選の開票作業が続いた8日夜から9日未明にかけて、金融市場の動きに神経をとがらせ続けていた。
トランプ氏の当選は金融市場にとって想定外の事態だ。開票開始までの取引では、6日に連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の訴追を求めないと発表したことを好感して、株価は上昇基調をたどっていた。
しかしトランプ氏の当選は市場の幻想を打ち砕いた。トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しや中国からの輸入品への高額関税など大胆な経済政策を主張しており、経済の先行き不透明感が一気に高まったかたちだ。ウォール街は「当面は株価急落への不安が広がる」というの見方で一致している。
またトランプ氏の当選で米政府とFRBとの信頼関係が揺らぐとの観測もある。トランプ氏は選挙戦でFRBのイエレン議長についてオバマ大統領を助けるために低金利を続けていると批判してきたからだ。一方のイエレン氏は12月の利上げを見据えてはいるが、経済の不透明感が広がったことで、かえって利上げに動きにくくなっている。
さらにウォール街にとってはトランプ氏がちらつかせる規制強化も悩みの種といえる。トランプ氏はこれまでクリントン氏とウォール街の親密な関係を度々批判。10月下旬の演説では、21世紀型の「グラス・スティーガル法」が必要だとまで述べた。1999年に廃止された同法は銀行業務と証券業務の兼業を禁じる内容で、手足を縛られることになるウォール街にとっては「悪法」だ。
一方ではトランプ氏勝利がもたらす「不確実性」への不安は一時的なもので、トランプ氏はビジネスマンとして現実的な政権運営に向かうとの期待もある。しかし「予測不可能」を信条とするトランプ氏の勝利はやはり金融市場の波乱要因だといえそうだ。
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