海外企業の進出熱冷ます中国のえこひいき 自国に有利な規制…遠のく世界の信認
人民元国際化8月上旬、米紙ウォールストリート・ジャーナルが、ある米国企業の中国市場からの撤退について、こう“疑惑”を報じた。
「今回の取引の至るところに、政府がかかわった形跡がある」
13億人超を抱える巨大市場からの撤退を決めたのは、スマートフォンを使った米配車サービス大手のウーバー・テクノロジーズ。中国で8割超のシェアを握るとされるライバルの滴滴出行(ディーディーチューシン)は8月1日、ウーバーの中国事業を買収すると発表した。だが、ウーバーの本当の壁は滴滴ではなく中国政府だった、と海外の市場関係者は分析する。
ウーバーが撤退を決める直前に、中国政府は配車サービスに関する規制を発表した。配車サービスを合法化する一方で、採算割れとなる営業を禁止する内容だ。シェアが低く、中国市場で赤字が続くウーバーは不利になる。同紙は規制の背景に「おそらくは滴滴へのえこひいきという要素もあった」と指摘した。
こうした中国政府の恣意(しい)的な関与は、通貨でも同様だ。人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨となったが、その前提だった人民元改革の動きは鈍い。為替相場への介入や、海外への資金移動規制などは残ったままだ。自国の利益のみを追求する中国の姿勢は、日本企業のビジネスにも影を落としつつある。
撤退ルール整備要望
上海浦東国際空港から車で40分。外資系のハイテク産業が立地する上海浦東開発区に、NTTコミュニケーションズの「上海プードンデータセンター」がそびえ立つ。延べ床面積6500平方メートル、鉄筋3階建ての最新のデータセンターとして稼働するはずだったが「入居者がいないマンション状態」(NTT関係者)でほぼ2年が経過した。
NTTコムは現地資本と合弁しないデータセンター事業を計画し、当局も容認する姿勢だったが、中国政府の急な方針転換で頓挫した。同社は合弁相手の選定を急いでいるが、まだ決まっていない。
エスビー食品は昨年、中国でカレールーなどの現地生産を取りやめた。東日本大震災後の規制強化で、日本からの原材料の調達が難しくなり品質を守れなくなったためだ。
だが、企業が撤退しようとしても、当局の規制が足かせとなる。日中経済協会など財界トップらで組織する訪中団は9月、商務省との会合で撤退ルールの整備などを求める要望書を手渡した。外資企業が進出する際は、一元化した窓口で迅速に手続きできる。だが、撤退時は行政府の複数の部署での認可が必要となり、長期にわたって撤退できないケースもあるという。
「投資促進には、ビジネス環境の整備が必要だ」
経団連の榊原定征会長はこう強調する。
通常の建物の3階分はある、吹き抜けのような巨大な会議場。9月に中国で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で、安倍晋三首相は同席した萩生田光一官房副長官に話しかけた。
「天井が高いな。(空調に)お金がかかるだろうに」
会場となった杭州国際博覧センターは、総床面積84万平方メートルと世界第2位の規模を持つ。議長国・中国が、威信をかけて建設した大型施設だ。安倍首相は「日本の空調技術を使えば、高さのある空間でも効率的に、快適な温度調整ができるのではないか」と続けたという。
今後縮小・撤退10.5%
国内総生産(GDP)世界2位の大国として振る舞う中国だが、日本をはじめとする海外から見れば改善すべき問題が山積している。それは人口13億人の巨大市場におけるビジネス環境の整備や、SDR入りに伴う人民元の国際化も同様だ。
日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた2015年度の進出企業実態調査によると、今後1~2年のうちに中国事業を「縮小」または「移転・撤退」すると答えた企業は全体の10.5%にあたる91社となり、前年度調査に比べ3ポイント増えた。投資や輸出に依存した経済成長の限界が指摘される中、いかに国際的な信認を得るか。大国・中国の果たすべき責任が問われる。
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この企画は上海 河崎真澄、ワシントン 小雲規生、三塚聖平、田村龍彦が担当しました。
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