岐路に立つグローバリズム 日本は存続へ主導権発揮を

論風

 ■地球産業文化研究所顧問・福川伸次

 最近、グローバリズムを揺るがす動きが高まっている。

 9月上旬に中国・杭州市で20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれ、下振れリスクに悩む世界経済について主要国が結束して政策手段を総動員して改革と成長を目指すことに合意したが、将来への不安を拭い切れないでいる。

 英国は、6月に国民投票によって欧州連合(EU)離脱を決めた。EUはグローバリズムを定着させるステップとして期待されてきたが、英国の離脱決定によって歯車は逆に回り始めた。

 米大統領選挙にも不安と期待が交錯しているが、その背景にあるのは米国社会で所得格差が拡大し、低所得層に鬱積した不満のように見える。そうした不満は、米国の政治を内向化し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の批准に消極的となり、世界の安全保障への貢献を忌避する力に働く。

 中国は、経済力の拡大と軍事力の充実を背景に、南シナや東シナ海などで拡張の動きを示している。米国、日本、韓国などは中国の拡張政策に警戒と反発を強めているが、中国は強硬な態度を続け、既成事実を造り上げようとしているように見える。

 ロシアも米欧の弱体化に付け込んで、すでにクリミア半島を自国の勢力範囲に取り込み、ウクライナへの影響力を強めようとしている。加えて、北朝鮮などにみられるように核の拡散が進行し、イスラム国(IS)を中心にテロ活動が活発になっている。

 ◆多極化構造が背景に

 このようなグローバリズムに反する行動が起こる第1の原因は、国際社会の多極化構造の進展にある。グローバル化が進むと、必然的に経済活動の平準化が進み、国際社会構造は多極化する。そうなると、国際社会のガバナンスに関する合意が困難となる。経済運営の主体も主要8カ国(G8)からG20に変わったために効果的な対策が合意できない。加えて多極化現象が特定国の国際的影響力を低下させるため、独善的な行動をとる傾向を高める。

 ◆ポピュリズムの台頭

 第2の原因は、主要国の国内政治の規律低下にある。政治は本来国民の安全を守り、経済を成長させ、福祉の充実を図ることを任務とすべきものだ。しかし最近は政党が政権の座に就くことを最優先してポピュリズム(大衆迎合主義)政治を展開している。

 第3に、市場リスクの増大がある。世界経済は、イノベーション力が落ち、需要が低迷している。米国経済はやや回復基調にはあるが、その金融政策には不透明性があり、EU経済は金融不安と英国の離脱によって低迷し、日本経済も構造改革が進まず低成長が続いている。中国経済も素材産業の過剰能力の解消が進まず、「新常態」への移行が危ぶまれている。

 主要国が政治のポピュリズム志向によって市場の適正な管理が進まず、過剰流動性を創出して世界経済の投機性と不安定性を高め、主要国の経済政策を内向きにしている。

 このように、グローバリズムは深刻な岐路に立たされている。しかし、グローバリズムは、19世紀から20世紀にかけ世界を支配したナショナリズム、そして20世紀後半の東西のイデオロギーの対立をこえて、ベルリンの壁の崩壊を契機にようやく手に入れたレジームである。

 それは、民主主義、法の支配、人権の尊重-を目標に主要国の連帯によって平和を維持し、市場経済、自由貿易、企業活動の自由によって経済成長を促し、環境保全、生活向上、貧困撲滅などで人類の福祉の充実を図り得るとの期待があった。世界は、グローバリズムを理想としている。

 資源、食糧、市場を海外に依存し、国の安全を集団安全保障体制に依存する日本は、グローバリズムなしに国の存立は図れない。今こそ日本は、世界にグローバリズムの意義を説き、その具体的ビジョンを提示し、その基盤を固める努力を払わなければならない。

                   ◇

【プロフィル】福川伸次

 ふくかわ・しんじ 東大法卒、1955年通商産業省(現経済産業省)入省。86年通産事務次官。88年退官後、神戸製鋼所副社長、副会長、電通総研社長兼研究所長を経て、2005年から機械産業記念事業財団会長、12年4月から現職。84歳。東京都出身。