インドネシア観光打撃「政策と矛盾」 禁酒法案提出に産業界反発
インドネシアは、禁酒に関する法案が議論を呼んでいる。イスラム系の開発統一党(PPP)と福祉正義党(PKS)の2政党は、アルコール分1%以上の飲料の生産・流通・消費を全面的に禁止する法案を国会に提出。これに対し、酒造メーカーなどは反発している。現地紙ジャカルタ・ポストなどが報じた。
PPPとPKSが提出した法案には「アルコールの悪影響から国民を守り、その危険性についての意識を高める」のが趣旨と説明されており、「社会の秩序と平和を維持する」のが目的とされている。宗教儀礼、医薬品、文化的行事、観光などいくつかの例外は設けられているものの、実質的にはアルコール飲料の入手自体がきわめて困難になる内容だ。
法案提出を受け、産業界からは反対の声が相次いだ。宿泊業とレストラン業の業界団体の代表は、アルコール飲料の全面的な禁止が外国人旅行者の減少につながるとし、ホテルとレストランの持続的な成長が脅かされると反対した。
また、一番の当事者となる酒造メーカーの業界団体、インドネシア・モルト飲料産業グループの幹部は、すでに酒造メーカーが中央政府から30、各地方政府から150の規制によって縛られていると指摘。これ以上の規制は業界の存続に関わると述べた。同国の統計庁によると、アルコール飲料の全面禁止が現実化すれば、直接的には酒造メーカーの1800人、間接的には農業やレストランなどの12万8000人が失業するほか、年間で6兆ルピア(約474億円)の税収減となる見通しだ。
外国人旅行者らからは「ビールのないバリの休暇なんて、想像もできない」「祝い事には酒の2、3杯は必要」といった声が上がるなか、法案が2020年までに15年比でおよそ2倍となる外国人旅行者2000万人を目指す政府方針に矛盾するとの意見もある。
総人口2億5000万の7割以上をイスラム教徒(ムスリム)が占めるインドネシアだが、政治的には宗教の自由を認め、世俗主義の立場を取っている。ただし、飲酒についての厳しい世論は根強く、規制がたびたび議論の的となってきた。
昨年もゴーベル前貿易相がスーパーマーケットとミニマートでの5%以上のアルコール飲料の販売を禁じる省令を出したほか、地方では今年3月にパプア州が流通・生産の全面禁止に踏み切るなどしている。法案の行方にかかわらず、今後もアルコール飲料をめぐる国内の議論は続いていきそうだ。(シンガポール支局)
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