THAADで中国人の韓国離れ進む? 依存から抜け出せないのは自業自得だが…

 
米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備に抗議するソウル市民。中国からの観光客が遠のくとの懸念が広がっている(AP)

 今年1~7月に韓国を訪れた外国人観光客が同期間としては過去最高の980万人を記録したという。7月の1カ月間の訪韓客も前年同期比168%増だったが、中国人が全体の54%を占め、“中国頼み”は相変わらず。だが、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備決定で、訪韓する中国人客が減るとの懸念が韓国で広がっている。中国人観光客は政治・外交問題に敏感とされ、実際に今年5月に台湾で蔡英文総統就任後、訪台客が急減していることからもうかがえる。

 「外国人観光客、過去最高」はぬか喜びに…

 韓国紙、朝鮮日報(電子版)は、1月から7月までに訪韓した外国人観光客は980万人で、前年同期に比べ34%増えたとする韓国観光公社の統計まとめを報じた。また、7月の1カ月間に韓国を訪れた外国人客も169万人で前年同期比168%増となり、うち中国人客が全体の54%(91万人)と最も多かった。

 1カ月間に訪韓した中国人客が80万人を上回ったのは初めてという。つまり、訪韓客呼び込みに中国人客は不可欠で、その傾向がさらに強まっているというわけだ。

 一方、この「外国人観光客、過去最高」というニュースに水を差す格好となったのが、米軍のTHAADの韓国配備決定で、中国人客の訪韓が減るかもしれないと懸念する声も高まっている。

 韓国観光公社が、THAAD配備が発表された7月8日を起点にその前後5週間の訪韓中国人客数を比較したところ、発表後5週間の訪問者数は102万8千人で、発表直前5週間の88万7千人より15・9%増えていたという。

 だが、朝鮮日報の取材に対し、ある観光業界関係者は「中国人客は、7、8月に関してはそれ以前に予約した通り訪韓した。THAADの影響がどうなるかはもう少し後にならないと正確に分からないだろう」と慎重だった。

 中国一辺倒から抜け出せるか…

 実際、THAAD配備決定の影響で、韓国と中国の間で観光・MICE分野の協力にほころびが生じているという。MICEとは、企業などの会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行=Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字だ。

 韓国経済新聞(電子版)によれば、中国側がすでに一部の訪韓行事の取りやめを通知し、中国人客の比率が高い観光・MICE業界では「チャイナリスク」が現実化するのではという懸念の声が強まっているとしている。

 そして、リスクを避けるため中国一辺倒から抜け出し、東南アジアなどに市場を多角化しようという動きも出始めている。同紙によると、韓国MICE協会は11月に中国政府傘下のMICE委員会と共同で韓国・済州で開催する予定の「韓中MICEビジネスフォーラム」計画を全面的に修正し、アジア・太平洋に地域を拡大することを8月9日に決定。中国国営旅行会社のCITS、CTSなどの関係者で代表団を構成して派遣することにしていた中国MICE委員会が訪韓計画を全面的に取り消したからだという。

 訪韓計画の取り消しは、THAAD配備決定のため韓国との交流を中断するべきという中国政府の指示に基づくものとみられる。韓国MICE協会長のキム・ウンス会長は同紙の取材に対し「中国側が不参加の意思を明らかにし、対象をアジア・太平洋地域に拡大することにした」とし、「日本、シンガポール、香港、タイ、インドネシアなどから関係者を招請する行事として準備する計画だ」と説明している。

 政治・外交問題に過敏な中国人観光客

 そうした中、韓国紙、中央日報(電子版)は、THAADの韓国配備など政治・外交的な“変数”によっては、訪韓中国人客が韓国経済に及ぼす負の影響が広がり、雰囲気が一瞬に冷え込むこともあるとの見通しが出てきたと報じた。

 同紙は、LG経済研究院が8月10日に公表した報告書「中国人観光客経済学」に注目し、「中国人観光客は政治・外交的変数に敏感で、感情的に過剰対応する傾向が高い」との分析を取り上げた。

 報告書では、「THAAD配備のような事件で雰囲気が一瞬で冷え込むこともある」と指摘し、「台湾で蔡英文総統就任後、両岸関係が硬直化の兆しを示したことを受けて5月の中国人観光客が前年同期比30%ほど急減したことがこれを傍証している」と強調している。

 韓国には「中国の“脅し”に屈するな」と応援したくもなるが、中国依存から抜け出せないでいるのは自業自得だから仕方がない。