製品安全、仕様規定から性能規定へ 自由度拡大 優良事業者に恩恵

論風

 □経済産業省消費者政策研究官・谷みどり

 電気用品やガス用品の安全規制で、改革が静かに進行している。仕様規定だった技術基準が、性能規定に変わったのだ。これは、現代の市場に対応する上で欠かせない改革であり、他の分野の規制の参考にもなる。

 ◆技術の進歩への配慮必要

 危険な製品が市場に出回らないようにするためには、市場関係者の努力に加えて、国の規制が欠かせない。製品安全のための規制法として、電気用品安全法、ガス事業法と液化石油ガス規制法がある。これらの法律に基づいて、国は安全基準を定める。製造事業者や輸入事業者は、定められた基準を守り、製品にマークをつける。マークのない製品は、売ってはならない。

 問題は、どんな基準を定めるかということだ。電気用品なら、「電気用品の技術上の基準を定める省令」が基準を定める。以前の省令は、製品ごとに大きさや形などの仕様を決めた。たとえば絶縁電線なら、電線の導体の太さごと、絶縁物の種類ごとに、絶縁体の厚さの基準が定められていた。

 しかし、電気用品の種類は多く、安全上の課題は電線より複雑だ。新製品が市場で販売されるためには、安全性の試験を行ったりして省令を改正しなければならないが、それには時間がかかる。規制が技術進歩の速度を遅くしたり、海外の優れた製品を輸入しにくくしたりしてはいけない。

 そこで行われたのが、安全のために必要な基本的な性能だけを要求することにするという規制改革だ。電気用品安全法の技術基準省令は、2013年に大幅に改正され、14年に施行された。

 新しい省令には、まず、「通常の使用状態において、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えるおそれがないよう設計される」等の安全原則がある。そして、危険源に対する保護として、感電からの保護、絶縁性能の保持、やけどの防止、機械的・化学的危害や電磁波からの危害の防止などが規定されている。最後に、使用上の注意の見やすい表示と、扇風機などの長期使用製品についての標準使用期間などの表示の規定があって終わる。以前の省令より格段に短くなった。これなら、新製品が出るたびに改正しなくてもすむ。

 しかし、これだけでは困る人がいる。たとえば、感電しないかなど、いちいち自分で立証しろと言われたら、多くの費用がかかる。具体的に仕様を規定した以前の基準の方が、守られているかどうかを判断しやすい。

 ◆「整合規格」の活用

 そこで、以前の省令に書かれていた仕様規定は、「電気用品の技術基準の解釈」として残されることになった。この仕様規定を守っていれば、新しい省令の性能基準を守っていると解釈される。多くの事業者は、省令が性能規定に変わっても、今まで通りの仕事ができる。

 一方、この解釈は、これを守らなければいけないという基準ではない。これ以外の仕様でも、省令の性能規定で定められた安全性を確保できるという技術的根拠があれば、マークをつけて販売できる。以前の省令の仕様規定以外の国際規格なども、新しい性能規定に合致する「整合規格」として認められている。

 自由度は広がった。ガス用品についても、性能規定に変わった新しい省令が、今年4月に施行された。

 市場が多様化しグローバル化する中で、誠実な事業者が栄えるためには、国の賢い規制が必要である。そのためには、規制をするかしないかの二分論ではなく、どのように行うべきかという検討が必要だ。これは製品安全だけの話ではない。たとえばクレジットカードの新しい規制を考える上でも、性能規定は検討課題の一つである。製品安全規制での経験は、これからの国と市場との関係を考える上で、貴重な示唆を与えてくれる。

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【プロフィル】谷みどり

 たに・みどり 東大経卒。1979年通産省(現経済産業省)入省。経産省消費経済部長、官房審議官(消費者政策担当)を経て、2008年7月から現職。61歳。広島県出身。