スマホ決済、急速に進む中国 訪日客増、迫られる日本の対応
高論卓説2016年7月にニューヨーク証券取引所と東京証券取引所市場第1部に上場したLINE、同社の無料通信アプリ「LINE」の月間利用者数は、グローバルで約2億2000万人、主要4カ国・地域(日本、タイ、台湾、インドネシア)では、約1億5700万人(6月末)だという。日本のスマートフォンユーザーにとって、なくてはならないアプリの一つだ。
一方で、電子マネー機能の「LINE Pay」に関しては14年12月にサービスを開始したものの、あまり知られていない。日本国内でスマホによる電子マネーの普及が足踏みをしている間にも、中国ではスマホによる電子マネー決済が急速に普及し、キャッシュレス化が進んでいる。
中国の金融経済に詳しいNTTデータ中国投資の新川陸一チーフストラテジーオフィサーによると、中国の電子マネー隆盛の動きは中国人民銀行が公表している「中国決済システム運行状況」のデータにも表れているという。
同データによると15年末の人民元決済の個人口座数は、73.3億口座(前年比13.2%増)と大幅増となっている。銀行カードの発行枚数残高は54.4億枚(同10.3%増)で、このうち銀聯カードなどのデビットカードが50.1億枚(同11.8%増)、一方クレジットカードは4.3億枚(同5.1%減)だ。これは、アリババの「支付宝」(アリペイ)などのスマホ決済が増加している中で、決済用に専用口座を設ける人が多いことも増加の一因と考えられる。
また、銀行カードの1枚当たりの平均年間消費決済額が1万106元(同17.7%増、約16万円)となる一方で、同1件当たりの決済額は1894元(同11.7%減)となっている。ネットショッピングの隆盛を反映し、カード1枚当たりの平均年間決済額が増加する一方で、小口の取引でもネットを利用する傾向が広がり、1件当たりの平均決済額が低下している。電子決済におけるモバイル決済業務は、件数で138.4億件(同205.9%増)、金額で108.2兆元(同379.1%増)という急成長を遂げている。
「LINE」の中国版であるテンセントの「微信」にも電子決済の機能があるがシェアは2割ほどで、これに対し「アリペイ」は7割といわれる。
電子マネーを使って店頭で支払う場合、スマホに表示した2次元コードをリーダーで読み取るだけだ。2次元コードをスマホでスキャンする方法もあり、こちらは露天商のようなところでも利用可能だ。関連付けた銀行口座からお金を振り込むのも、残金を銀行口座に戻すのもスマホだけの操作ででき、かつ手数料が不要。必要な時に必要な金額だけを「アリペイ」に移せばよい。
日本でもカードの代わりにスマホを利用して現金をATM(現金自動預払機)から引き出せるシステムが導入されるようだ。ただカードレスにするだけでも、大手銀行で利用可能となるのは18年から。偽造カードによる現金不正引き出し事件のため、ほとんどの金融機関が、海外発行カードによるATMでの1回当たりの引き出し限度額を5万円に引き下げた。限度額5万円だと引き出すたびに手数料がかさむ。20年に訪日外国人旅行客4000万人を目指すなら、電子マネー決済をはじめとした現金以外の多様な決済方法を早急に整備すべきだろう。
◇
【プロフィル】森山博之
もりやま・ひろゆき 早大卒。旭化成広報室、同社北京事務所長(2007年7月~13年3月)などを経て、14年から遼寧中旭智業有限公司、旭リサーチセンター主幹研究員。58歳。大阪府出身。
関連記事