熊本地震で倒壊多数、耐震化が急務 公共施設は更新期、財政力に課題
熊本県を中心に相次いでいる地震で、気象庁は17日、地震発生回数が2004年の新潟県中越地震を上回り、内陸や沿岸部で起きた地震では最多ペースになっていると明らかにした。震度7、6強といった激しい揺れに加え、間断なく続く地震で多数の家屋が倒壊。命を落とした人の大半が自宅だった。災害時に対応拠点となるはずの市役所が損壊したケースもあった。専門家は「命を守るために耐震化を急がなくてはいけない」と訴える。
自宅安全か分からず
14日夜に震度7を記録した熊本県益城町では16日、倒壊した住宅から女性の遺体が運び出された。母親によると、余震を警戒し「車で眠るようにしよう」と家族と話していたが、15日は電気がついたので部屋を片付けた後、女性は1階の寝室で寝ていたという。そこを揺れに襲われ、犠牲になった。
1995年の阪神大震災の発生直後、被災者を調査した東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害心理学)は「当時は本震が強烈だったため、怖くて自宅に戻りたくないという人が多かった」と話す。一方、今回はいったん避難所に身を寄せた後、自宅に戻った人も多かったとみられる。
被災地では建物の安全性を診断する専門家が不足しており、自宅が安全かどうかはすぐには分からない。「傾きなどで居心地が悪かったり、建物が揺れやすくなっていたりといった変調があれば、危険な可能性がある」。東京工業大の山田哲教授(建築構造)はそう指摘する。
広瀬氏も「一見して分からない弱い部分が生じている可能性がある。身の安全を守るために、なるべく自宅に戻らない方がいい」と強調する。
補強徹底されず
阪神大震災では、1981年以前の古い耐震基準で建てられた住宅に被害が集中。国は補助制度を作って耐震改修を促しているが、国土交通省によると、2013年時点で住宅全体の耐震化率は推計約82%にとどまる。
阪神大震災では、柱だけで支えるピロティ形式の1階部分がつぶれるケースが相次いだ。今回も1階部分が押しつぶされた建物が目立つ。
室崎益輝神戸大名誉教授(防災計画)は、耐震補強が徹底されなかったことが原因との見方を示し「助かった命もあったはずだ」とみる。
16日未明の地震では熊本県宇土市の市役所も損壊。築50年以上といい、03年度に「震度6強程度で大きな被害を受ける可能性が高い」と判定され、市が建て替えを検討中だった。
公共施設の多くは高度経済成長期に建ち、全国的に更新時期を迎えている。災害時に避難所になる公立小中学校は国の手厚い補助もあり、文部科学省によると、15年4月1日時点で95.6%が耐震化を完了。一方、市役所や役場などの庁舎は総務省消防庁の15年3月末時点調査で74.8%と「財政力の弱い自治体ほど対策が後回しになっている」(自治体関係者)のが実情だ。
大規模地震に耐えうる新耐震基準で建てられた建物なら、震度6強の揺れが繰り返しても「まだ余裕はあるはずだ」と山田教授は言う。「老朽化した建物が使われているのは危険で、耐震化を急ぐべきだ」と指摘した。
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