スターバックス、本場イタリアでも勝機あり? バール崩壊、Wi-Fi…条件整う

 
スターバックスのロゴ

 今年2月、スターバックスCEOのシュルツ氏がミラノにも出店すると発表した。来年にも進出すると見込まれている。

 しかし外野席はざわついている。「エスプレッソの本場であるイタリアで、スターバックスのコーヒーが受け入られるのか」「立ち飲みで短い時間でコーヒーを飲む習慣に馴れた人たちが長居するのか」「飲食のチェーン店は成功しない」という意見がある。

 一方、以下のような声もある。

 「既にアメリカ発のカフェはミラノに定着しており、市場があるのは見えている。スターバックスのコーヒーはイタリアのエスプレッソとは別カテゴリーと考え、いわば紅茶や緑茶を見るような目でスターバックスのコーヒーをとらえている。Wi-FiがあるところでPCを広げて作業し、そこで人とも会う。そういうライフスタイルとしてのスターバックスなんだね」

 スターバックスがイタリアに何店舗出さないと事業として採算が合わないかは知らない。主力商品の値段がいくらかになるかも分からない。一号店はエスプレッソを中心としてカウンターだけにするとの情報もある。

 いずれにせよ、ミラノに数店舗出すことが特に不自然ともみられない時代になったのは確かだ。以前からあるイタリア文化に合わないとの否定的意見が傍流になったとは言わない。しかし肯定的な意見も多くなり、それらに説得性が出てきたとは断言できる。

 機が熟した、とスターバックスが判断したとしても違和感を抱かない。

 前提としてミラノとイタリアの他都市の位置づけが変化してきたことがある。

イタリアの都市はそれぞれに個性が強いが、10数年前と比較してミラノは国際都市としてのポジションが強くなった。「イタリア全般では何とも言えないが、グローバル市場で受けることがミラノなら受ける」と感じる人が増えている。それもミラノの人だけでなくミラノ以外の地方都市の人も、以前のように対抗心をむき出しにするのではなく、ミラノを特別視するようになったのだ。

 次にミラノの伝統的なバールの崩壊がある。特に市中心部のバールが後払いではなく前払いシステムを採用し、ヘルシーなヨーグルトを置いたりする。それだけでない。かつてバールはサッカーと政治の議論をする世代を超えたソーシャルな場であった。その性格が急激に消滅しつつある。

 3番目にスローフードやバイオ食品を重視するトレンドにあった飲食店の増加がくる。ワインを呑むエノテカも「オヤジの立ち飲み屋」ではない。各地方の拘りのサラミやチーズも提供する、味と健康に煩い連中の溜まり場になっている。従来のカテゴリーの再編成が進行中である表れと認識してよい。

 4番目はWi-Fi環境とコワーキングスペースの普及であり、そこを拠点に仕事をすることが当たり前になってきたことだ。コワーキングスペースであるインパクト・ハブと、その近くにあるカフェにはまったく同じタイプの人たちが集まり、同じようなスタイルの仕事の仕方をしている。

 スローフード運動は1980年代後半、イタリアにマクドナルドが進出してきた際に反動としておきた。米国発のファーストフードに対する社会運動である。今もって、「スターバックスは米国文化の侵略だ」と言う人もいるが、前述したように伝統的バールが市場の変化に対応している現状をみるに、少なくてもミラノ中心部の文脈にはあてはまらない。

 イタリア人のある友人はこう語った。

 「外国のスターバックスにいくと、イタリア人がうじゃうじゃいて喜んでコーヒーを飲んでいるじゃない。イタリアのエスプレッソは世界一美味いと自負している人たちが、そういう行動をとっている意味を考えるべきだね」

 

 スローフードがスタートしてから約30年。ちょうど1世代という年月である。米国とイタリアという2つの文化が変化した結果として、今回のスターバックス進出をおさえると見えてくることは沢山ある。

 古典的な言い訳に誤魔化されてはいけない。

(安西洋之)