【木下隆之の試乗スケッチ】トヨタ新型カローラ 若者離れ食い止める秘策は「iMT」

 
新型カローラ

 「この時代にマニュアルミッション?」。12代目となる新型カローラの試乗会で、いきなり6速MT(注:マニュアルトランスミッションとあえて説明しないと最近は知らない人も多いでしょう)が設定されていると聞いて驚いた。

◆6割がAT限定免許の時代ですが…

 日本国内でAT限定免許制度が始まったのが1991年。それ以来AT限定免許者は右肩上がりで増え続け、いまでは全国平均で約6割がAT限定免許保持者だという。

 そんなMT離れはなはだしい時代に、トヨタは大量生産モデルであるカローラに6速MTモデルを設定したというのだから、どういう風の吹き回しかと慌てたのである。

 カローラの誕生は1966年である。今年で52年を迎える。半世紀にわたって日本の国民車として君臨してきた。

 世界に羽ばたいても快進撃は続く。世界販売は4600万台。生産拠点は世界16箇所。世界154カ国以上の国と地域で販売されている。あまりに大きい数字にリアリティを失いかけるけれど、「10秒に1台がお客様へ届けられている」と聞けば、とにかくバカ売れしていることだけは想像できる。カローラはもはや、日本が誇る世界的国民車なのである。

 そんなカローラに6速MTなのである。海外ではいまだにMT需要の強い地域はあるから、10秒に1台が売れているカローラに6速MTが設定されていても不思議ではない。だが、それをAT免許所持比率が6割を超える日本に設定することに驚きを隠しきれない。

◆「レビン」を忘れらないオヤジたち

 トヨタの狙いはこうだ。

 「カローラを若い人達に…」だという。ともすれば70歳代に届こうというカローラの平均購買層を、20歳代から30歳代の男女にスライドさせたいという。そのために6速MTの設定なのである。

 ただし、6速MTなんてもう死語になりつつあるし、AT免許比率は今後は増える一方だろうから、MTを設定することはむしろ若者離れを誘発するだろう。だから僕には、MTの設定は若者へのラブコールではなく、走りを捨てきれないオヤジへのメッセージにしか思えないのである。

 思い返せば1970年代のTE27カローラには「レビン」と呼ばれるバリバリのスポーツクーペが存在していた。モータースポーツでも大活躍、伝説のAE86はとりもなおさず「カローラレビン」のコードネームである。

 というように、かつてのカローラは床からニョッキリとはえたシフトレバーをコキコキやりながら峠を走る硬派のモデルだったのである。そんな古き良き郷愁に浸る昭和世代のオヤジの琴線には響くだろう。つまり新型カローラの裏テーマは、「クルマ本来の楽しさをオヤジに…」だと思う。

◆実は若者受けしそうな「iMT」

 とまあ、ズポズポの昭和オヤジ世代の僕はそう思うのだが、実際に走らせてみると、若い世代への心憎い配慮が行き届いている。

 搭載する1.2リッターターボは、低回転域から力強く、扱いやすい特性である。昭和時代のターボのように、ドッカンと弾けるタイプような扱いづらさはない。

 組み合わされるiMT(インテリジェント・マニュアル・トランスミッション)は、ドライバーの変速をサポートする。

 ギアの上げ下げをすれば、コンピューターが自動でエンジン回転を合わせてくれる。加速のギクシャク感がないばかりか、減速時のシフトダウンでも、いわば「ヒール&トゥ」(これも説明が必要でしょう。ブレーキングしながらのシフトダウンでは、エンジン回転を合わせるために足首をひねってかかとでアクセルを空吹かしすること)を代行してくれるのだ。

 発進時には、クラッチペダルをリリースする瞬間にエンジン回転を上げ気味にしてくれる。エンストする恥ずかしさを防ぐのである。昭和オヤジに言わせれば、そんなのは自分でやるから楽しいんだとなるのだが、若者には受け入れられることだろう。

 そう、新型カローラは、6速MTの設定からも想像できるように、昭和世代をチラ見しながらも、平均年齢を半分以下にする意気込みで開発されているのだ。

 「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。掲載は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。

 木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。

【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。