異界に舞い下りた奇跡の饗宴 「和魂漢才」に身震える 国東で深化したダイニングアウト 

 
至福の時間にゲストの顔にも笑みがこぼれる

 人里離れた深い山並みに神仏習合の宗教観が息づく大分県国東半島の寺院群「六郷満山」。その大自然を舞台に2日間だけの珠玉の饗宴が開かれた。プレミアムな野外レストラン「ダイニングアウト」。主宰したトラベルサイト「ONESTORY」と提携するSankeiBizが、魅惑の一夜をリポートする。

◆空港を出た瞬間から始まる「演出」

 「ふぅー」。思わず背伸び。

 まぶしい5月の日差しは、夏の訪れが近いことを告げていた。時折吹き抜ける風が心地よく首元を撫でていく。

 羽田空港から飛行機で1時間半。都会の喧騒は彼方へ飛び去り、大分空港に着くと一気に高揚感に包まれる。そう、ダイニングアウトはもうここから始まっているのだから。

 空港の外で待っていたのは「LEXUS(レクサス)」。会場までのアクセスも優雅に…。ダイニングアウトとタイアップしてきた高級車も、イベントを盛り上げる大事な存在。メディアも一般のゲストも皆、このレクサスでのドライビング体験が用意されていた。

 ダイニングアウトの趣向で楽しみの一つが、当日まで目的地が明かされないこと。これって、大人もワクワクするね。

 私が乗り込んだのは2ドアのスポーティータイプ。バケーションのドライブを満喫するには文句なしだ。車内の美しい皮張りがラグジュアリー感を高め、胸が高鳴る。アクセルにそっと右足を乗せただけで、すっと立ち上がる加速感。一方で、ステアリングと足回りは少し硬めに感じる味付けも、きびきびした走りと相まって、レクサスのドライビングの楽しさを印象付ける。

 スタッフの案内で、国道213号線を北へ。海岸沿いのドライブは快適そのもの。運転席から窓越しに青い海原が見え隠れする。

◆数々の趣向で幻想的なムードに

 レクサスは海岸線と別れ、うっそうとした山道へ。180度のコントラストがまた楽しい。30分ほど走っただろうか、着いた先はとある寺院の前だった。しかし本殿らしき姿は見当たらない。

 ゲストら一行は、延々と続く300段の石段を黙々と登り始めた。額にうっすらと汗が浮かび始める。

 「えっ」。驚くゲストの目の先に、ほら貝を片手の白装束の修験者がたたずんでいた。いたずらっぽい笑みを浮かべ、「ようこそ。さあ、あともう少しです」と先を促す。

 どこかで見たような…。「あっ、中村さんでしょ」と笑い声がこだまする。実は今回のイベントのホストで美食評論家、中村孝則さんの粋な演出の一つだったのだ。

 中村さんに迎えられてたどり着いたのは、六郷満山随一の歴史を誇る古刹、「峨眉山 文殊仙寺」。

 国東半島は両子山という岩山を中心に6つの山稜に分かれ、その寺院群の総称が六郷満山だ。大陸から伝わった仏教と日本古来の神道が融合し、山岳信仰とも混淆して独自の文化が花開いた。そして今年が開山1300年という節目にあたる。

 ディナー会場に案内されるとばかり思っていた一行に、また一つ趣向が用意されていた。特別に導かれた奥の院で、副住職による護摩焚き供養が始まった。あたりはもうほの暗く、一切の煩悩を焼き尽くす火柱が天井まで届かんと燃え上がり、幻想的な雰囲気を醸し出す。読経に耳を傾け、静かに手を合わせるゲストもどこか神妙な面持ちだ。

◆「ここでディナー?」 目を丸くするゲスト

 厳かな雰囲気で送り出された一行は今少し石段を登った。そしてまたも驚き、わが目を疑うことに。

 切り立った崖に突如現れたオープンキッチン、そして純白のテーブルクロスに包まれた客席。すでにここまで浮世離れだが、ついに異世界に迷い込んだ心持ち。ぜひ写真をご覧頂きたいが、この場所でディナーだなんて夢を見ているようだ!

 そしてオープンキッチンと野外、このライブ感をどう表現すればいいのだろう。「準備はいいか?」。キッチンの中心で忙しく鍋を振り、周囲の視線をくぎ付けにする男性が。今宵のもう一人の主役、中華料理シェフの川田智也さんだ。

 「1300年の歴史でこんなイベントが行われるのは初めて。後世に残るだろうと思います」

 感慨深げに切り出した中村さんと一緒に乾杯。いよいよ饗宴の始まりだ。

 ウエルカムドリンクにまずしびれる。文殊仙寺の山号にちなんだ中国茶「峨眉雪芽(がびゆきめ)」を、境内に湧く名水「知恵の水」で淹れた。中国と国東の融合、それが川田シェフの今宵のテーマだ。

 1982年生まれの川田シェフは、中華の名店「麻布長江」で経験を積み、その後日本料理の名店「龍吟」でも修行を重ねた異色のキャリアを持つ。昨年2月に都内でオープンした「茶禅華」は、わずか9カ月でミシュランを獲得。今もっとも注目される気鋭の中華料理人の一人だ。

 日本料理の繊細な風味と滋味深さと中国大陸の料理文化を独自の技術で融合する。川田さんが「和魂漢才」と呼ぶテーマが、今回のダイニングアウトのイメージに重なり、シェフに抜擢された。

◆「和魂漢才」を追い求めるシェフ

 その「和魂漢才」の真骨頂は、地元の野菜やオイスターを中国茶で蒸した「岩香蒸山海」だろう。調理法を聞かなければこれを日本料理と思い込んでも不思議ではないほど、川田シェフの引き出しの豊かさを感じさせる。国東の干しシイタケの旨みと「完成されている」と川田シェフがうなったオイスターの食感が絶妙だ。

 さらに今回のダイニングアウトのもう一つのテーマは、当地の岩山にインスパイアされた「ロックサンクチュアリ」。その「岩」をイメージした料理も見事に尽きるものだった。

 実はテーブルに無造作に置かれた自然の岩石がずっと気になっていたが、「爆米炸泥鰌」という料理が出てきて謎が解けた。紹興酒の香りをまとった泥鰌のおこげ揚げだが、器は文殊仙寺の境内の石を焼いたものだったのだ。前出の「岩香蒸山海」も熱した国東の岩と中国の岩茶で蒸し上げたものだ。

 ディナーを盛り上げるもう一つの趣向が、それぞれの料理に合わせたアルコール。たとえば「国東開胃菜」は、小ぶりで味わい深い国東のオイスターを汁のジュレと合わせ、日本と中国の30年物の古酒の香りをプラス。そこにペアリングでも上海の老酒と「西の関」の古酒を出すといった具合だ。

 ディナーの締めくくりは、川田シェフが修業時代から作り続けるデザート、「爽口凍青梅」と温かい杏仁豆腐。初夏にぴったりの爽やかな味わい、そして杏仁豆腐のふくよかな甘みが、見事なコントラストだった。

 挨拶に立った川田シェフが「和魂漢才を追い求める自分。その求めたものがここにあった」と興奮した面持ちで話すと、満座の拍手がそれに応えた。

 夢のような時間はあっという間。余韻と感激に浸ったまま、ゲストは山門を後に。静謐な世界が再び山々に戻ってきた。

◆地域を元気にしたい、その思いが共感を呼ぶ

 5月26日、27日に開催された『DINING OUT KUNISAKI with LEXUS』。ダイニングアウトとしては13回目を数え、さらに深化した。

 地域活性化も目的の一つに掲げるONESTORYのダイニングアウトは、地元をはじめ各方面の協力に支えられる事業だ。

 今回も国東市民ら多くの関係者が裏方として参加した。会場に駆け付けた三河明史国東市長は「国東は鬼が棲む異界。この場所で特別なレストランができることに幸せを感じる」と笑顔を見せれば、レクサス・ブランドマネジメント部の沖野和雄Jマーケティング室長は「ライフスタイルを豊かにしたいレクサスとダイニングアウトは親和性がある。クルマと旅してもらうことで新しい発見が広がると思う」と期待を込めた。

 ディナー後、メディアに囲まれた二人のホストには充実感が漂っていた。中村さんは「日本にこんな所がまだ残っているのかと衝撃を受けた。料理と宗教はともに人を幸せにするもの。それが明確に分かった」と強調。川田さんも「火力が必要な中華は(野外では)無理だと思った。でも地元の活性化のために力になれた」と手ごたえを語った。

 毎回、日本のどこかで数日だけオープンするプレミアムレストラン「ダイニングアウト」。はかなさと華やかさが同居する日本の新たな美の次の発見者、それは貴方かもしれない。(SankeiBiz 柿内公輔)

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