【試乗インプレ】充電不要! ガソリンで走る「電気自動車」 日産ノートe-POWERを試す(前編)

 
日産「ノート e-POWER」で神奈川県の城ケ島周辺を走る

 日産自動車が主力小型車「ノート」にハイブリッド(HV)モデルを追加した。最大のウリは何といっても、同社が10年の歳月をかけて開発してきた電動パワートレイン「e-POWER」を初採用したこと。HVと書いたとおりエンジンとモーターを搭載しているが、実態はモーターだけで走るという、いわゆる電気自動車(EV)なのだ。しかも使うのはガソリンで、充電は一切必要ないという。日産が『電気自動車の新しいカタチ』というキャッチコピーを与え、「もはや発明」とまで言い切る超自信作の実力はいかに。前編ではロードインプレッションを中心にお伝えする。(文・大竹信生/SankeiBiz 写真・瀧誠四郎)

 HVであり、EV

 見出しに「ガソリンで走る電気自動車」と書いたが、厳密にいうと「ガソリンエンジンで発電した電気で走る自動車」となる。これはシリーズ方式と呼ばれるHVの一種で、プラグを介した充電は一切必要としない。ガソリン車と同じように給油し、そのガソリンを燃料に1.2リットルエンジンで発電した電気をモーターに供給して走るHVであり、EVなのだ。エンジンはあくまで発電機として機能し、駆動には一切加担しない。動力源は100%モーターだ。

 昨年11月のノートe-POWER発表会には筆者も足を運んだが、実は興味の半分はゲスト出演したタレント、柳沢慎吾さんのネタが見たい、という下心によるものだった(!)。だが、e-POWERのプレゼンを聞くうちに関心がじわじわと高まり、その後に行われた15分のミニ試乗会だけでは満足できず、ついには11月の月間新車販売ランキングでノートが「サニー」以来、日産勢30年ぶりとなる1位に輝き、たまらず広報車を予約したのだ。

 4つの注目ポイント

 日産によるとノートe-POWERの注目ポイントは主に4つある。(1)モーター駆動による力強い走り(2)2クラス上の静粛性(3)新感覚の運転操作(4)トップレベルの燃費性能、だそうだ。ぜひその辺を意識しながら走ってみようと思う。

 というわけで、横浜市の日産本社でノートを借り出し、神奈川県三浦半島の南端に浮かぶ城ケ島を目指して出発した。試乗車のグレードは上から2番目の「X」で、価格は税込みで196万円だ。

 「リーフ」のモーターを搭載

 運転席に収まりスタートボタンを押すと“ひっそり”と起動する。アクセルを踏むと音を立てずにスーッと発車。発進時から最大トルクを発揮するモーターは、最初のひと踏みから力強い。モーターは日産を代表するEV「リーフ」と同型(EM57)のもので、最高出力80kW(109PS)、最大トルク254N・m(25.9kgfm)を発揮する。ノートe-POWERなら1.2トンのボディでリーフの走りの一端を味わうことができるというわけだ。

 日産本社周辺を軽く走ってから高速道路に合流し、ドライブモードをノーマルからSモード(=スポーツモード)に切り替える。モーター出力が明らかに増幅してレスポンスが鋭くなり、再加速や追い越し車線への合流もとてもスムーズ。小型車にありがちなパワー不足を感じないどころか、むしろ驚くほど軽やかに走る。テレビCMで矢沢永吉さんが思わず「攻めるねぇ、ニッスァーン」と唸るのもうなずける。ノーマル時にややフワフワ感があったハンドルも、Sモードだとキュッとシャープに操舵感が増す印象で、高速走行時も全く不安はなかった。ファミリー層を中心に人気のコンパクトカーにしては足回りを硬めに仕上げているが、道路の継ぎ目やバンプで不快に跳ねるようなこともない。

 e-POWERが実際に発電を行う場面は急加速時や登坂時、またバッテリー残量が少ないときだ。横浜横須賀道路(通称・横横)を高速走行しているときもエンジンが稼働していたのだが、充電中のエンジン音はほとんど気にならない大きさだった。一定の低い回転数を保ちながら効率よく発電しているので、むしろロードノイズや風切り音にかき消されてしまう。ちなみに減速時や降坂時にも回生ブレーキで発電してバッテリー充電を行う。

 加速も減速もペダル1本

 筆者にとって一番印象的だったのは(3)の「新感覚の運転操作」だった。これはアクセルペダル1本で加減速を行える「e-POWERドライブ」というワンペダル操作だ。ドライブモードをエコモードかSモードを選択中にアクセルペダルを戻すだけで、エンジンブレーキの約3倍の力で減速する。最初は慣れが必要だが、感覚さえつかめばアクセルとブレーキペダルの踏みかえ回数が減るのでとても便利だ。高速走行中にペダルをぱっと離しても急ブレーキがかかるようなことはないので、ご安心を。もちろん、減速が間に合わないときや緊急ブレーキを要するときはフットブレーキを使うように! ノーマルモードの時は、アクセルペダルを離した時の減速具合は他のクルマと大きく変わらなかった。

 “横横”を降り、三浦縦貫道路を経由して国道134号を走る。信号と交通量が多く頻繁に加減速を繰り返す一般道では、ワンペダル操作のメリットが最大限に発揮される。コツをつかんだ筆者はエコモードを選択すると、目的地の城ケ島までほとんどブレーキペダルを踏むことなく走り続けた。

 エンジンが作動していないときのモーター走行は実に静かだ。高速走行時と違ってロードノイズも風切り音も気にならない。静粛性が高い車内での会話はよく通り、滑らかな走りは快適な乗り心地をもたらす。

 先述の通り、エコかノーマルモード選択時はハンドルがふわりと軽く、フットブレーキの利き具合もソフトだが、モーター走行は出だしからスイスイと身軽で、足回りの味付けは硬くキビキビとしていて安定感がある。特にこれといった癖もなく誰にでも運転しやすい素直なクルマ。シーンに合わせてエコ/ノーマル/Sモードを上手に使い分けると走りやすいと思うが、高速道でなければエコモードだけでも十分快適に走れる印象だ。しかも充電のことを気にせず、ガソリン車感覚でモーターによるEV走行を100万円台後半で楽しめるのはこのクルマの大きな武器だ。

 城ケ島をドライブ

 しばらくすると海が見えてきた。城ケ島大橋を渡りながら右手に富士山、左手には太陽に照らされてキラキラと輝く大海原を望む。エンジン音を否定するつもりは毛頭ないけれど、あらゆる“雑音”を排除した車内から綺麗な景色を眺めていると、なんだかとっても優雅な気分になれる。

 横浜から1時間ほどで城ケ島に到着し、カメラマンの瀧さんと定食屋を探す。筆者は来る前からとりあえず海鮮を食べると勝手に決めていたのだ。その割には全く下調べをしてこなかったのだが…。

 筆者「ここに来たらやっぱり新鮮な海の幸が食べたいですよね」

 瀧さん「おお、いいんじゃない」

 筆者「あそこに見えるお店にしましょうか」

 ノートe-POWERを駐車場に止めてお店に入ったが…あれッ、なんだかとっても嫌な予感がする。(やばい。財布に数百円しか入っていない…)

 筆者「瀧さん、オレ、金持ってませんでした。財布に札が1枚も入ってないです…(汗)」

 瀧さん「いいよ。貸してあげるから」

 筆者「あぁ、ありがとうございます!!」

 ということで、大先輩のやさしさに救われた筆者は1250円のまぐろ丼を、瀧さんは大きなサザエの入った930円のラーメンを注文した。(お金を借りたくせに、瀧さんより高い食事をオーダーする図々しい筆者…)。このまぐろ丼がかなり美味しい。しかもボリュームたっぷりで、大食漢の筆者もかなり満足。会計を済ませた瀧さんは、町おこしの「ウツボ唐揚げ丼」がメニューにあったことを知り、「なんだ、知ってたらそっちを食べたよ」と相当ガッカリしていた。

 とんでもない道に迷い込み…

 お腹を満たした二人は城ケ島周辺で撮影をスタート。オレンジ色の車体は青い海との相性がよく、なかなか絵になる。撮影スポットを探して海岸線を走ると、海は綺麗だし風力発電の風車も雰囲気があって実に気持ちがいい。

 撮影も無事に終了し、日産本社を目指してナビを操作する。案内されたとおりに道を進むと…ノート1台がぎりぎり通れる急勾配の田舎道に入ってしまった(写真参照)。しかも先は結構長そう。筆者が「知らない道だし、今のうちに引き返したほうがいいかもしれないですね」と聞くと、瀧さんは「なんで? このまま行っちゃえばいいんじゃない」と平然と即答。運転していないと気楽なんですね~!と苦笑しつつ腹をくくって“難局”に臨んだが、アップダウンの厳しい激狭ワインディングでもノートe-POWERは余裕で駆け抜ける力があったことには驚いた。

 今週はここまで。後編ではノートe-POWERの内外装や燃費性能、使い勝手を紹介する。お楽しみに。

 そうそう、柳沢慎吾さんはネタを披露したのかって? あれだけのサービス精神の持ち主なら答えはもちろん「イエス」。スタッフから「柳沢さん、そろそろお時間です」と“強制シャットダウン”させられるまでタバコの箱を片手に楽しそうにしゃべり続けていました。最後は「もう終わり? 寂しいなあ」としょんぼり降壇しましたが、そこは柳沢さん、「あばよ!」でしょ…!!(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■主なスペック(試乗車)

全長×全幅×全高:4100×1695×1520ミリ

ホイールベース:2600ミリ

車両重量:1210キロ

発電用エンジン:DOHC水冷直列3気筒

総排気量:1.2リットル

最高出力:58kW(79ps)/5400rpm

最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3600~5200rpm

モーター型式:EM57

最高出力:80kW(109ps)/3008~10000rpm

最大トルク:254Nm(25.9kgm)/0~3008rpm

駆動方式:前輪駆動

タイヤサイズ:185/70R14

定員:5名

燃料タンク容量:41リットル

燃料消費率(JC08モード):34.0キロ/リットル

車両本体価格:195万9120円