「離島を奪還せよ」 総合火力演習、新旧戦車の“防衛力”を間近に見た!
離島を奪還せよ-。陸上自衛隊による国内最大規模の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」(総火演)が8月28日、静岡県の東富士演習場で一般公開された。想定は、敵部隊が占拠した離島の奪還のため、陸海空自衛隊が統合作戦を行うというものだ。実弾射撃も含めた大規模演習は毎年人気を集め、申し込みが集中する。今回は約14万7千通の応募があり、倍率は約29倍。抽選に外れた人にも現地の雰囲気を伝えるため、演習を紹介しよう。(岡田敏彦)
総合火力演習は昭和36年に自衛隊内の学生教育の一環として始められ、昭和41年から一般公開している。58回目の今回の演習には、陸上自衛隊の戦車部隊の総本山ともいえる富士教導団をはじめ、中央即応集団隷下部隊に航空自衛隊、海上自衛隊も参加し、総勢約2400人。最新の10式などの戦車と装甲車だけで約80両、総勢では700両になる。演習のテーマは5年連続で「離島の防衛と奪回」とされた。
演習は前段と後段に分かれ、前段では戦車▽装甲車▽対空車両▽遠距離砲▽攻撃ヘリ-などによる実弾射撃を実施。後段では離島奪還のシナリオとして、(1)島しょ部に侵攻してきた敵の迎撃(2)応援部隊の展開(3)上陸した敵部隊を排除-の3段階で実弾射撃を交え演習を行った。
なかでも来場者の注目するのは戦車による実弾射撃だ。日常では決して見られない光景だけに、演習では発砲のたびに観客席から歓声がわいた。
今回の目玉は、やはり最新鋭の10式戦車。2010年に制式採用され現在量産が進んでいる。自衛隊最初の戦車の61式戦車(1961年に制式採用)から数えて4代目で、主砲には欧米標準レベルの120ミリ砲を装備するが、その主砲を制御する火器管制コンピューターや、重い砲弾を人に変わって装填する自動装填装置は日本独自の世界最先端のシステムだ。
照準もレーザーや赤外線など複数のセンサーを用いており、いったん照準をロックすると自車両と敵車両がともに高速で移動している状況でも自動追尾ができるとされる。
最新鋭としての最大の特徴は、その連携能力だ。10式は味方戦車数台との連携プレーが可能で、部隊長が各戦車に適した攻撃目標を割り振ることもできる。互いの残弾数や残存燃料などの情報を共有できるのはもちろん、偵察ヘリなどとも情報を共有しタッチパネル式の画面に戦場の状況を表示できる。
また、危険度の高い敵が迫っているにもかかわらず、部下の車両が他の敵と交戦中などで気づいていない場合には、部隊長が部下の戦車をオーバーライド(乗っ取り)して砲を別目標に向けることも可能とされる。演習では、高速走行しながら常に砲身が一方向を指している安定性を披露した。
一方で74式戦車も見逃せない。40年前の1974年に制式採用された“老兵”で、10式や90式のように異素材を組み合わせた複合装甲を持たないため、最新の砲弾(APFSDS)に対する防御力は低いが、この演習では改めて底力をアピールした。それは、世界でも珍しい「油気圧式サスペンション」の性能だ。
この機構は山岳地帯など起伏の多い国情に合せたもので、車体の姿勢を任意に変化させられる。前下がりや後ろ下がり、あるいは車体を左右に傾けることができる。例えば山の稜線から、眼下の裾野にいる目標を撃破する場合などに極めて有効だ。車体後部を上げた姿勢で射撃すれば、車体のほとんどは稜線に隠れる。稜線の岩や土砂を“装甲の代わり”にできるのだ。
ちなみに筆者が総火演を取材するのは20数年ぶり。当時は戦車の発砲音がすさまじく、空気圧を受けて耳の鼓膜がグッと押されるような感覚を味わった。観覧席では発砲の一発目で泣き出す子供もいたほどだが、今回は発砲音が幾分小さくなったように感じた。
次回は、侵攻された離島に対し、応援の先遣部隊として乗り込む空中機動部隊などを紹介する。
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