オシャレでクセのあるイタリアの人気者 「フィアット500」で都内を駆ける(前編)

試乗インプレ
迎賓館の前を走るフィアット「500C」

 映画「ローマの休日」や人気アニメ「ルパン三世」でもおなじみのクルマと言えば、皆さんもあのキビキビと走るコンパクトカーをすぐに思い浮かべることだろう。そう、イタリアの自動車メーカー、フィアットの主力車「500」だ。日本では見かける機会が少ないが、本国イタリアをはじめ特にヨーロッパでは幅広い層から支持される人気の大衆車。3代目となる現行モデルは2008年に日本に上陸し、今年1月に初のマイナーチェンジを施した。今回の試乗インプレは、よりオシャレに生まれ変わった500のソフトトップモデルに乗って、東京の街をルーフ全開で颯爽とドライブ。このクルマ、良くも悪くもいろんな驚きと魅力が詰まっていますよ!(文・大竹信生 カメラ・瀧誠四郎)

 乗るのが恥ずかしくなっちゃう!?

 今回取り上げるのは、500の中でも幌でできた開閉式ルーフを持つ「500C」というタイプ。いわゆるキャンバストップだ。試乗の日はいつも空模様が気になるけれど、今回はオープン走行におあつらえ向きな上天気。「雨に邪魔されずに良かった!」と安堵した。

 さっそく500Cと対面する。真っ赤なボディに目を引くベージュの幌。初見の率直な感想は「こじんまりしていて可愛い!」。すぐ近くにメチャクチャ“ごっつい”ジープが止まっていたこともあり、500Cにはとてもフェミニンな匂いを感じた。「ヤバイ、自分にはゼッタイ似合わない…」。まだ乗ってもいないのに、あまりの可愛さにちょっと気恥ずかしくなる。

 500らしいデザインを継承

 筆者が初めてフィアット500を見たのは、小学生の時にレーザーディスク(懐かしい!)で見た「ローマの休日」に登場する初代モデル。新聞記者とカメラマンが、オードリー・ヘプバーン演じるアン王女を連れてローマの街中を走り回る「トポリーノ」と呼ばれるオープンモデルだった。その後、ルパンでもおなじみの2代目「NUOVA 500」が登場。500といえば、つぶらなヘッドランプや丸みを帯びたフェンダーが特徴だが、今回試乗した3代目は、これまでの500らしさを踏襲しつつ、レトロ感の強いスタイルをしっかり現代風に仕上げている。さらに、今回のマイナーチェンジではLEDデイライトを採用するなど、外観をよりファッショナブルに進化させている。

 カラフルで快適なインテリア

 インテリアもかなり高いレベルでオシャレ。フィアットのロゴをあしらったハンドルや先端が窄んだレバー、大型の計器類など至る所にクラシックな雰囲気をぷんぷんと漂わせているが、ハンズフリーボタンの装着やメーターパネルを部分的にデジタル化するなど、イマ風な要素もちりばめている。試乗車のダッシュボードはレッド、クリーム、グレーの3色使い。スイッチ類など決して質感は高くないが、日本のメーカーにはなかなか真似できない、イタリアらしい抜群のセンスを感じる。

 気になる居住性はどうか。前席は足元、横幅に十分な広さを確保。ヘッドクリアランスは身長172センチの筆者でもこぶし2つ分の余裕があるなど、小さな見た目からは想像できないほど快適。逆に後席はかなり狭く、大人は窮屈に感じるだろう。2人乗りのセカンドカーと割り切るのがベターだ。シートはいたって普通だが、座面に奥行きがあるので、太ももをしっかり膝までサポートしてくれる。この辺に欧州車らしさを感じる。

 見た目は可愛いけれど、アクセルを踏むと…

 では実際にクルマを走らせてみよう。助手席には産経のベテランカメラマン。単なる偶然だが、記者とカメラマンの組み合わせは「ローマの休日」とまったく同じだ。オードリーのような可愛いプリンセスとの出会いに期待して(?)、500Cで東京の街に飛び出した。

 ギアを入れてアクセルを踏み込むと、コンパクトで愛らしい見た目とは裏腹に、875ccの2気筒ダウンサイジングターボエンジンが「ブロロロロ」と存在感たっぷりに唸る。静粛性とは無縁だ。今どき珍しい機械的でラフなサウンドに、イギリスの友人が乗っていた初代VWビートルを思い出す(もちろん、あそこまでうるさくはないけれど…!)。そういえばあれもオープンモデルだった。車体がぶるぶると震える振動が懐かしい。「あえてこういう味付けなのか?」。ハンドルを切ったり加減速をするたびにクルマから様々な反応が返ってくるので、自分で操作している感覚が非常に強い。クルマと会話でもしているようだ。今回は高速道を走る機会がなかったが、街乗りする分にはアクセルレスポンスや加速具合に不満は感じなかった。

 MT色の濃いシングルクラッチ式AT

 トランスミッションは、フィアットの「デュアロジック」と呼ばれるATモード付5速シーケンシャルを採用している。デュアロジックはマニュアルトランスミッションの構造をベースとしたシングルクラッチ式ATで、普段MT車で行うクラッチ操作とギア変速をドライバーに代わって電子制御するシステム。これら通常のマニュアル操作をオート化しているため、運転が得意なドライバーが操るMT車と比較して変速ショックを感じやすいが、このガクガクとしたダイレクト感がいかにも「クルマを運転している」「大きな機械を動かしている」といった気分にさせてくれる。この独特の乗り心地は、乗る人によって好みが分かれそう。

 ちなみにデュアロジックは、アクセルペダルを踏んでいない時に車両がスーッと進むクリープ現象が発生しないため、坂道発進やリバース時に丁寧なアクセルワークが必要とされるが、すぐに慣れるので心配は無用。もちろんMTモードを選択すれば、シフトレバーを「+」「-」に入れて一段ずつ変速させながらマニュアル運転を楽しむこともできる。

 (前編はここまで。次回の後編では、キャンバストップの魅力や500Cの“モテっぷり”をお届けします。お楽しみに!)

■【主なスペック】フィアット500C TwinAir Lounge(試乗車)

全長×全幅×全高:3570×1625×1505ミリ

ホイールベース:2300ミリ

車両総重量:1050キロ

エンジン:直列2気筒8バルブ マルチエア インタークーラー付ターボ

総排気量:875cc

タイヤサイズ:195/45R16

最高出力:63kW(85ps)/5500rpm

最大トルク:145Nm(14.8kgm)/1900rpm

トランスミッション:ATモード付5速シーケンシャル(デュアロジック)

最小回転半径:4.7メートル

燃費(JC08モード):24.0km/L

乗車定員:4名

車両本体価格:279万7200円(税込)