【試乗インプレ】愛車ではなく、相棒と呼びたくなる一台 マツダ「ロードスター」で東伊豆を行く
2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダ ロードスターがいよいよ「試乗インプレ」に登場。昨年末から広報車の貸し出しを申請していたが、2月も中旬を過ぎてようやくお借りすることができた。いまだに各メディアやイベントに引っ張りだこだそうで、依然熱く注目され続けているクルマということか。それほどの人気車種ならば、と今回は2日がかりで伊豆半島の東側の海沿いと山坂道、全行程500キロのロングドライブを敢行。大人気の秘密に迫った。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
道行く人が振り返らざるを得ないカタチ
誤解を恐れずに言えば、とにかくエロい。4つのタイヤの存在を主張するフェンダーの盛り上がりに、引き締まったウエスト。これで人間の身体をイメージするなというのが無理なくらいの造形。4メートルに満たない全長ながら、存在感は抜群。まさにセクシーダイナマイト。特に後ろ姿が美しい…のだが、いつにも増して、写真では魅力が伝わらないのがもどかしい。好き嫌いは別にして、ちょっとでもクルマに興味がある人なら振り返らざるを得ないカタチ。
実際、試乗中に道行く人、並走する他のクルマからの視線にちょいちょい気づいて、最初はちょっと照れくさかった(もちろん私が見られていたわけではないが)。
これが自宅駐車場にあったら、乗らない日でも毎日眺めてニヤニヤしてしまうだろうなぁ、スケベおやじのように。
運転操作のストレス皆無 操作系レイアウトは熟成の域
着座位置が低く、幌屋根を閉じたままだと、最初は乗り込むのに難儀するが、ドアの開口面積は前後に大きいので、慣れてくると私のようなメタボ体型でもスッと乗り込めるようになる。ただ、ソールが厚めの靴だと、右足を入れる際にドアを蹴ってしまいがちなので、薄底のドライビングシューズに履き替えるのがいいだろう。
座ってポジションを決め、フロントガラスから前方を見ると、左右のフェンダーの盛り上がりが目に入る。運転席からボンネットが見えないクルマが当たり前の昨今、もうこれだけで「特別なクルマ」感がビシビシ伝わってきて、早くもテンションが上がる。
低い車高に、変速装置とドライブシャフトを覆うセンタートンネルも高めで、絶対的な室内容積は決して大きくない。しかし、さすがに全幅170センチを超える3ナンバーサイズだけあって、横方向には多少余裕があり、我慢できないような狭さではない。そもそも悪天候でなければ屋根を開けた時の“室内”高は文字通り青天井なので、この辺は普通の乗用車と同じ基準で評価するべきではないかもしれない。
足をほぼ地面に水平に前へ投げ出す乗車姿勢もスポーツカーならではで、慣れるまではいろいろ新鮮である。シート調整幅は十分にあるが、ハンドルを前後に動かすテレスコピック機能がないのは残念。これがあれば、背もたれを寝かし気味にセットでき、ドライバーの視界にも空が少し入って、クルージング時の爽快感が増すと思う。
内装のデザインは、シンプルでオーソドックス。試乗車はレザーシートをおごった上級グレードだったが、チープではないものの、格別質感が高いという感じはしない。もっとも、ホンダ・S660と同じで、走り出したら運転に夢中になって内装にはあまり目がいかないから、こういうクルマは使い勝手のほうが重要だ。運転に必要な基本機能は、とても使いやすくデザインされており、自然に手を伸ばせばそこにレバーやスイッチがあるという理想的な配置。おかげで運転操作のストレス皆無なのは、さすが4代目、熟成の域という感じ。
初めてこのクルマに乗るという人でも、普通に走らせるだけなら、恐らくは何ら説明を受けずとも運転できてしまうだろう。そのくらい良い意味で原始的な、自動車の基本に忠実なデザインである。
シフトレバーの手前にジョイスティック式のコントローラを備えたナビ、3連ダイヤル式のエアコンも、直感的に使えてストレスなし。
一方で、収納に関しては配置が独特。結論から言うと使いづらい。まず、助手席ダッシュボードにグローブボックスがない。代わりに鍵付き収納スペースが左右座席背もたれの間にある。ちょうどティッシュの箱が入るくらいの奥行があり、容量としては十分だが、何ぶん座ったままでは体をひねらないと出し入れできないのが厳しい。実は左右背もたれの後ろにももう少し小さい蓋付き収納スペースがあるが、これは座っている間は出し入れできないので、用途を選ぶ。さらに最悪なのはカップホルダー。この配置がセンターコンソール最後端、つまりドライバーの左ひじのさらに後ろあたりなのだ。これはどうにも使いづらい。座ったまま飲み物を出し入れするには、上体を大きくひねって右手でとるか、サウスポーよろしく左手だけ後ろにそらせて逆手でボトルネックをつかむかしかない。いずれにしても、無理めの体勢を強いられる。蓋付きの容器でなければ遠からず中身をシートにぶちまけそうな予感がする。助手席の人にいちいち出し入れしてもらうのもなんだか違う。運転の邪魔にならずにスペースを確保するには、ここしかなかった事情は一見してすぐわかるものの、それにしても…。オプションで助手席足元に飛び出す形で取り付けるカップホルダーもあるが、助手席の人にとっては邪魔くさい突起になってしまう「ぼっち乗り」専用装備と言える。
ハマる!独特の旋回感 懐深く扱いやすくエンジン
冒頭に書いたとおり、今回は2日がかりの試乗。初日は小田原から伊豆半島東海岸沿いに城ヶ崎海岸まで、2日目は内陸へ入り、伊豆スカイラインを箱根峠まで駆け抜けた。
名物・河津桜のシーズンとあって、下りの初日はところどころ激しい渋滞に巻き込まれた。1.5リッターターボなしのエンジンだが、数値から受ける印象と違って、十分にトルクフル。2速発進もいけるし、1500回転前後を保ったエコランも可能なほどだ。それでいてレスポンスもよく、強めにアクセルを踏み込めば、自然吸気エンジンらしくリニアに回転数が上がっていく。爆発的な加速力はない代わりに、素直な出力特性が、コントロールしやすく、軽めでミートポイントのわかりやすいクラッチ、剛性感が高く、短めのストロークでカチッとシフトが決まる6速マニュアルミッションと相まって、クルマと対話しながら操っている感覚で満たされる。実際にはさほどスピードが出ていなくても、低い着座位置が疾走感を増幅させる。このスポーツカーとしては非力なエンジンが、ロードスターをここまで軽快に走らすことができるのは、グレードによっては1トンを切る軽量設計が大きく貢献していると思われる。
渋滞の最後尾についた時、“苦行”のマニュアル操作を覚悟したものの、特に左足が疲れるようなこともなく、多少シフト操作をさぼっても、懐の深いエンジンの特性もあって問題なく走れてしまい、拍子抜けするくらい楽ちん。AT限定免許でなければ、敢えてAT仕様を選ぶ意味はないだろう。たしかに面倒は面倒なのだが、渋滞路であってもシフトがスコスコ入る楽しさのほうが勝ると思う。
途中、小休止をはさみながら城ヶ崎海岸に到着したのは都内を出発してから6時間ほど経過した頃だった。移動距離なりの体の疲れはあったが、腰や足など特定の部位が痛むようなことはなく、最初に座った時は少しサポート不足に思えたシートが、体を適切にサポートしてくれていたことがわかった。
さて、2日目は山坂道の伊豆スカイライン。東京へと戻る午前の上り路線だったから、渋滞はなし。交通量も少なめで、思う存分アクセルを踏み込むことができた。ハンドル操作にも敏感すぎることなくほどよく反応し、半径の小さいカーブでもハイスピードで軽々と抜けていく。そうして左右に振り回していると、本当にこのクルマの軽さ(車重の軽さと、軽快な運動性能の両方)がよくわかると同時に、クルマとドライバーである自分の一体感を強く感じることができ、どんどん楽しくなってくる。
ワインディングで右に左に、と頻繁にハンドルを大きく切り続けていて、このクルマ独特のある感覚に気付いた。自分の胴体(と言うか頭)を中心に、つま先だけが向きを変えるような感じで曲がっていく。やや極端に言うと、回転椅子に座って左右に体を回しているような感じでクルマが向きを変えていくのである。これは車輪と座席のレイアウトが起因している。真横から撮影した画像を見ていただくとわかるが、座席のすぐ後ろに後輪がある。対して、前輪は、重量配分の要求を満たすために極力車体の前方に配置されている。旋回軸である後輪とドライバーの頭はほぼ同位置にあるから、ハンドルを切る度合が大きいほど、自分の頭を中心に旋回していく感覚は強く伝わってくる。実は前日の往路でも、交差点を曲がる時に、普通のクルマと違う感覚を覚えて、「これは何だろう」と引っかかっていたのだが、伊豆スカイラインの休憩所で真横から車体を見たときに初めて合点がいった。この独特の旋回感も、ロードスターの運転が楽しくなる要素の一つだ。
運転が楽しいのに加えて、エンジン、ミッション、ハンドリングのすべてが扱いやすい特性を備え、なおかつどこも突出することなく絶妙にバランスしていることも美点だ。免許取りたてであっても、久しくマニュアル車を運転していないというドライバーでも、1時間も乗っていれば体に馴染んでくるだろうと思えるほど、懐が深い。マニア向けでなく、ごく普通の一般的な運転好きユーザーに向けた良い意味でイージーな仕上がりと言える。関心のある方は、ぜひマツダのディーラーで展開中の1日乗り放題キャンペーンを利用して長時間試乗してみてほしい。
オープン走行時の風の巻き込みと実走燃費についても簡単に触れておこう。風の巻き込みはS660よりも少なめ。外気温6℃程度の伊豆スカイラインを駆け抜けても、長袖シャツ1枚でまったく寒くない。シートヒーターも効きすぎるくらいで、途中でオフにしてしまった。冬本番でも上着を羽織れば問題なさそうだ。満タン法で計測した燃費はリッターあたり14.3キロ。山道では3500~5000回転を保って走っていたわりには悪くない。エコランに努めれば、リッターあたり18キロくらいはいくのでは。ちょっとしたエコカーだ。
クルマ生活を一変させる幌屋根
走りの楽しさと同じくらいこの新型ロードスターにとって重要な要素がある。それは手動開閉式の幌屋根だ。開閉の手順については添付の組写真を参照していただきたいのだが、非常に簡単。開けるのも閉めるのも慣れれば10秒とかからず、たぶん電動格納式ルーフより速い。信号待ちの間に座ったままサクッと開閉できる。この、サクッと気軽にできるところが大事。極力オープンにして走ろうという気になる。なぜって、いつでもすぐ閉められるから。たとえば、ちょっとコンビニに買い物に行く程度の短距離でも開けちゃおうと思える。だって、すぐ閉められるから。クドいようですが。今回の試乗でもどこかに駐車してクルマから離れる時を除いては、つまり走っている時はほぼ全部オープンだった。
オープンカーを買ったはいいが、屋根の開閉が面倒でオープンで走るのが億劫になって、かと言って屋根を閉めると狭いし、結局あまり乗らないまま売ってしまいました…というような悲劇は、おそらくこのロードスターとは無縁のものだろう。
想像してみてほしい。雨や雪の時以外はいつでもオープン走行できるクルマ生活を。
ステータスという呪縛からの解放
2人しか乗れず、小旅行レベル以上の大荷物は積めない。実用性ゼロではないが、汎用性は低いと言わざるを得ない。それでもこのクルマでしか味わえない感覚が確実にあり、その感覚がユーザーをステータスという呪縛から解放してくれるように思う。
どんなに気に入って手に入れたクルマであっても、より高価なクルマ、よりステータスの高いクルマに追い越されたり、あるいは信号待ちで並んだりすると、誰しもちょっと悔しくなったりする。今回の試乗では、特に伊豆スカイラインで、様々なスポーツカーとすれ違い、追い越された。ちょっと懐かしいところではホンダのS2000、高価なところではマクラーレン(速すぎて車種不明)、台数が多かった車種としてはポルシェ・ボクスターなどを見かけたが、どんなクルマが来ようと、亀のように抜き去られようと、微塵も悔しさを感じなかった。それはなぜか。付き合う時間の長さに応じて、ドライバーとクルマの距離が縮まり、徐々に相棒のような存在になっていくからではないかと思う。どんなクルマとでもそういう付き合い方はできる、とも思うが、ことロードスターに関してはその間口がとても広い。来る者拒まずで、しかも優しく深くドライバーを受け入れてくれる。よっぽどスレたユーザーでなければ、誰しも虜になってしまうだろう。そして気づけば単なるクルマではなく、かけがえのない相棒となり、ほかの車種では代えられない価値を人とクルマが一緒になって築いていく…。クルマって何なんだろう、そんなことを考えさせられる2日間だった。(文・カメラ 小島純一)
■基本スペック
マツダ ロードスター S Leather Package
全長/全幅/全高(m) 3.915/1.735/1.235
ホイールベース 2.310m
車両重量 1,020kg
乗車定員 2名
エンジン 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量 1.496L
駆動方式 後輪駆動
燃料タンク容量 40L
最高出力 96kW(131馬力)/7,000rpm
最大トルク 150N・m(15.3kgf・m)/4,800rpm
JC08モード燃費 17.2km/L
車両本体価格 303.48万円
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