【試乗インプレ】上品、そして豪快! レクサス「RX」は走りを楽しめる高級SUV
トヨタ自動車の高級車ブランド、レクサスが昨年10月に4代目「RX」を発売した。これまで日本市場においてレクサス唯一のスポーツ用多目的車(SUV)だったが、その後「NX」「LX」も導入してラインアップを拡大。今では “SUV3兄弟”を形成している。今回、新型RXのハイブリッド車を試乗する機会を得たので、その様子を豊富な写真とともにお届けする。(文・カメラ 大竹信生)
ラグジュアリーSUVの代名詞
RXは「高級クロスオーバーSUV」の先駆けで、もはやラグジュアリーSUVの代名詞ともいえるモデル。約7年ぶりのフルモデルチェンジとなった4代目は、発売から1カ月で月販目標の18倍となる9000台を受注するなど、はやくも大ヒット商品となっている。
日本でのラインアップは、ダウンサイジングターボエンジンを搭載したガソリン車の「200t」と、3.5リットルV型6気筒エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車「450h」の2車種。今回試乗したのは「450h」の上級モデル“バージョンL”だ。
クルマを受け取り、カーナビに目的地を入力して発進する。これまでにも何度かレクサスを運転してきたので、その完璧な静粛性にはいまさら驚かない。静かで落ち着いた車内が、さっそく自分だけのプライベートな空間となる。走行中にハンドルから伝わる感触、スイッチ類の節度感、ダッシュボードを覆うステッチ入りのレザーなど、全体の質感にはかなり満足できる。高級家具に囲まれた部屋でくつろいでいるようなリッチな雰囲気があるのだ。
ドライブモードを切り替えると性格が“豹変”
ドライブモードは手元のダイヤルで4つから選べる。中低速域で走ることの多い街乗りは「エコモード」か「ノーマルモード」で十分。とくにモーターを効率的に使うエコモードは、走行距離を重ねても燃費性能のよさが伝わってきた。
エコモードのまま高速道路に合流する。大丈夫か? クルマの流れが遅い区間はこのままでも十分ついていけるが、全体のスピードが上がるとさすがにキツイ。ベタ踏みしても先行車から離されていく。ノーマルモードに切り替えてもそこまで余裕は感じられなかった。
ただ、最高出力262ps/最大トルク34.2kgf・mを誇る3.5リッターV6エンジンと、167ps/34.2kgf・mのモーターを積んだRXはそんなにぬるいクルマじゃないはず。ダイヤルを「スポーツモードS」に合わせるとメーター照明が赤色に染まり“戦闘態勢”にチェンジ。牙を剥いたRXは、アクセルを少し踏んだだけであっという間に先行車との距離が縮まる。さらに「スポーツモードS+」に切り替えて走行性能を最大限に引き上げると、体がシートの背もたれに吸い付きドーンと急加速。さっきまでのおとなしい姿は一体どこへ…。まるでスポーツカーにでも乗っているようだ。紳士的な風を吹かせていたRXの“豹変ぶり”にいい意味で裏切られた。
パトカーに追いかけられ…
調子に乗るとまずいので、再びアクセルを緩めて…などとノーマルモードに戻したら、うしろから猛スピードで迫ってきたドイツの某高級車にハイビームで煽られた。ここは道を譲って「はい、どうぞ」。何をそこまで急いでいるのだろうか-。その数分後、背後から再び猛スピードのクルマが…と思ったら、サイレンを鳴らしたパトカーが横を抜けていった。「やっちまったな…」。
クルマは高速を降りて、箱根の山へ。道幅が狭くなると、RXの車体の大きさに改めて気づく。全幅は1895ミリ。レクサスのフラッグシップセダン「LS」よりもワイドなのだ。ちょっと油断すると、車線の逸脱を警告する「レーンキーピングアシスト」に“怒られて”しまう。白線が薄れた道路でもしっかりとラインを認識する精度の高さには驚いた。
さて、ワインディングでの走りはどうか。足回りが硬めなので、ロールはあまり感じない。試乗車は重量バランスが前方に偏りやすい前輪駆動(FF)だが、バッテリーをリアに積んでいることもあって、質量配分の良さを感じた。ボディの剛性は非常に高く一体感がある。車両重量も2トンを超えるので安定感があり、幅235ミリ、20インチの大きなタイヤはしっかりと路面をグリップしている。純粋に、安心して上質なドライブを楽しめるのだ。ただ、重さに加えて高さがあるため、速度を上げてコーナーを回ると、思い描いたラインよりも外側に膨らみやすいと感じた。ステアリングもふわふわと軽い印象。もう少しアンダーを減らして、キビキビとターンできれば…などと感じたが、その辺の運動性能を求めるのならRXの「F SPORT」モデルがお勧めとなる。
快適な室内空間
クルマを止めてじっくりと眺めてみた。デザイン面では、切れ長のヘッドランプを構えるフロントからサイドにかけてシャープな印象。3代目のややボテッとした“おじさん臭”は抜けている。リアはオーソドックスで無難にまとめている。ウインカーは点滅式ではなく、光が流れる「シーケンシャルランプ」を採用。車体のボトムはフラットに仕上げている。悪路も走るSUVでは大事なことだ。後部座席は文句なしの広さ。仮に力士が乗っても快適だろう。その場合は4人乗りになると思うが…。ラゲージルームは十分な奥行きを確保している。リアシートを倒さなくても、大型のゴルフバッグを4個も横置きできるという。
先ほども触れたが、ボディはかなりワイド。全長も先代RXより12センチ長い4890ミリで、全体的にひと回り大きくなった。1年前に試乗したコンパクトタイプのNXより全長で26センチ、全幅で5センチも大きい。レクサスの担当者によると、一部のRXユーザーは「妻が運転しやすい」などの理由で、小型のNXに流れたそうだ。その代わりに、新型RXは他社ユーザーの吸引に成功しているという。レクサスへの買い替えが進んでいるのだ。
ライバルはBMW「X5」、アウディ「Q7」など
最後に少しだけ気になった点を挙げよう。まずは、発進するときに、たまにガラガラと振動することだ。これについては同乗者も指摘していた。これだけ滑らかな走りを実現しているからこそ、時々起きる初動の揺れがもったいない。あと、カップホルダーは夜になると見えづらい。ドリンクを置きやすいように、光のラインで縁取るなどの気づかいが欲しい。
RXはエレガントで、ときにダイナミック。どんな場面にもマッチして、さまざまな表情を見せてくれるSUVだ。広々とした車内を包み込む優雅な雰囲気は、どこまで走っても気持ちがいい。ドライブモードを上手に使い分ければ、力強い走りもエコな走りも可能にしてくれる。気になる試乗車の価格は、オプション込みで775万円。ライバルはBMWの「X5」やアウディの「Q7」などが挙げられる。メルセデス・ベンツの新型車「GLC」などもチョイスに入ってきそうだ。どれも手ごわい相手だが、箱根帰りのRXをもう一度眺めると、日本を代表する高級SUVらしい風格と自信のようなものを感じた。
外はすっかり日が落ちて真っ暗になった。一日の長旅を終えたRXはさっそく深い眠りについたようだ。こんな相棒との生活も悪くなさそう、なんて思ってしまった。
■450h“バージョンL”の主なスペック(試乗車)
◇エンジン
形式:2GR-FXS
種類:V型6気筒DOHC
総排気量:3.456L
最高出力:193kw(262ps)/6000rpm
最大トルク:335N・m(34.2kgf・m)/4600rpm
◇モーター
最高出力:123kw(167ps)
最大トルク:335N・m(34.2kgf・m)
◇駆動方式
前輪駆動(FF)
◇トランスミッション
電気式無段変速機
◇寸法
全長×全幅×全高:4890×1895×1710ミリ
ホイールベース:2790ミリ
車両重量:2070キログラム
◇性能
燃料消費率(JC08モード):18.8km/L
◇ボディカラー
ソニッククォーツ
◇インテリアカラー
ノーブルブラウン
◇メーカー希望小売価格
702万5000円(オプション込みで775万円)