【京都うまいものめぐり】
「すっぽん」と言えば滋養と強壮に効くイメージが浮かぶが、江戸時代から330年続くすっぽん料理の名店が大市(だいいち)。しょうゆと日本酒とショウガで味付けするだけの至ってシンプルな調理法だが、ぐつぐつ煮えたぎるすっぽん鍋とコクのある雑炊を味わうと元気が漲(みなぎ)ってきそうな気がする。大市は志賀直哉や川端康成の小説にも登場するが、この店を訪れる文豪らにもエネルギッシュなパワーを吹き込んだのかもしれない。
ぷるぷる歯応え
大市は元武士の近江屋定八が元禄年間(1688~1704年)に創業。以来、当時の店舗が代々受け継がれ現在は第18代の青山佳生さんが経営を取り仕切る。
献立はコース料理のみ。最初に提供される先付は「すっぽん肉のしぐれ煮」だ。日本酒としょうゆで煮たすっぽん肉の上に針ショウガが載せられ、しょうゆの香りが食欲をそそる。肉は箸でつまむとぷるぷると揺れ動く軟らかい部位や、歯応えのある部位などが混在し、食感のバリエーションが楽しめる。「軟らかい肉は腹、硬めの肉は背の部分」(青山さん)で、ショウガが絶妙な風味を添える。