【本の話をしよう】
その女は、家を中から食い荒らす-。家族が1人の侵入者によって崩壊していく恐怖を描いた『寄居虫女(ヤドカリオンナ)』。ホラーサスペンス界の新鋭・櫛木理宇(くしき・りう)さん(42)による、北九州連続監禁殺人事件や尼崎連続変死事件などを想起させる問題作だ。
雪深い地に暮らす皆川家。溺愛していた息子を亡くした主婦・留美子は鬱々とした日々を送っていた。3人の娘には不満だらけ、夫は他に愛人をつくって帰ってこない。そんなある日、亡き息子を思い出させる1人の少年がトイレを借りにやってくる。薄汚れた身なりの少年をかくまう留美子だが、後日、少年の母だと名乗る不気味な女が現れる。白塗りの厚化粧にレースの手袋をつけたその女の名は、「山口葉月」。それが、皆川家の崩壊の始まりだった-。
洗脳の手法リアルに
『なぜ家族は殺し合ったのか』『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』…。巻末の参考文献には、実在の事件を分析したルポルタージュが並ぶ。「北九州の事件から最初のヒントを得ました。主犯の男は、あまり人間的なバックボーンが語られていない。ポンと現れた怪物のような印象を受けました」