職員は人命を守ることに必死で、利用者とともに、取るものも取りあえず近くの小学校に一晩身を寄せた。そして1カ月の自宅待機の後も、神社の社務所や取り壊し予定の建物を転々としながら、拠点を探し続けることになる。アート活動どころではなかった。
だが、塗さんの作品は救い出され、守られていたのだ。彼女の才能を知るその美術家の手によって。
展示準備の手を止め、何百枚もの塗さんの作品を見せてもらった。すぐさま展示のレイアウトを変更した。
こんな作品を生みだすアーティストや、その活動拠点である障がい者施設の存在を地元の多くの人が知らない。才能が開花するのには、きっかけやチャンスが必要だ。
塗さんの作品は好評だった。展示する先から売れた。彼女の家族は「全額を施設の再建費にあててほしい」と寄付を申し出た。