定期旅客船が港に到着して乗客が桟橋に降り立つと、十数匹の猫が「朝ご飯ちょうだい」とでも言いたげに近づいてきた。気づくと記者の足元には、数匹の茶トラが。人間を恐れる様子はほとんどない。
瀬戸内海西部の伊予灘に浮かぶ青島(愛媛県大洲市長浜町)の港で、毎朝繰り返し見られる光景だ。この島はなんとたった15人の島民に対して100匹を超える猫が暮らす「猫島」なのだ。
昨秋、インターネットなどを通じて噂が広まり全国から猫好きを中心に観光客が訪れるようになった。高齢者が多くを占める島には宿泊施設や飲食店はおろか、自動販売機さえ無いが、「猫口(にゃんこう)密度」の濃さに引きつけられる猫好きの来島が後を絶たない。
大洲市にある長浜港から出船する定期旅客船「あおしま」は、午前と午後の1日2往復。約35分で青島に到着する。
島で漁師を営む紙本英則さん(63)は「猫は好きでも嫌いでもないよ」と言いながらも「なんだかんだ言っても、ね」と猫好きの顔をチラリとのぞかせる。その時、桟橋前広場に干してあるヒジキの上を歩く猫に向かって「コラッ!」と一喝。猫は一向にひるむ様子もなく「ヒジキのじゅうたん」から立ち去った。「しょうがないなぁ」と苦笑する。