池波正太郎(1923~90年)の小説《鬼平犯科帳》に《盗みの三か条》なる、本格の盗人が厳守する掟が登場する。
曰く-
《殺さず/犯さず/貧しきから盗らず》
主人公の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵はしばしば、三か条を一途に守る盗人を目こぼしし、平然と破る外道には容赦がない。三か条は、中国で言う《陋規(ろうき)》に近い、と感じる。
陋規の《陋》は卑しい、《規》は規律・道徳を指す。いうなれば庶民や“裏社会の道徳”。博打にルールが、泥棒仲間にも約束事がある、といった類い。対する、支配階級が発する表向きの規則や規制、正義といった道徳観を《清規》と称す。
「生活の方便」の崩壊
思想家・安岡正篤(1898~1983年)の講義録や著作にも力を借りて小欄を進める。支那事変(1937~45年)当時、日支の学者が集まった際、向こうの老学者がこんな主旨の話をした。
「日本軍の侵入で一番困るのは陋規を崩されること」