ソチ冬季五輪第15日の21日、バイアスロン女子24キロリレーで、ウクライナが冬季五輪2個目の金メダルに輝いた。折しもソチから約1200キロ離れた母国の首都キエフでは反政府デモ隊と治安部隊が衝突し、多数の死傷者が出たばかり。選手たちは「この勝利を祖国にささげる」と語り、スポーツの力による国民の団結を訴えた。吉報が届いたキエフでは、独立広場に陣取ったデモ隊が歓呼の叫びを上げ、政治危機の解決に向けた政府と野党代表の交渉が大詰めを迎えていたウクライナ国会では、政治家たちが議論を一時中断させ、高らかにウクライナ国歌を歌い上げた。
■神がかり的な力発揮
1991年に旧ソ連から独立したウクライナが冬季五輪で金メダルを獲得したのは、ウクライナとして初めて参加した94年リレハンメル大会のフィギュアスケート女子を制したオクサナ・バイウル(36)以来、20年ぶり。
欧州で熱狂的な人気がある、射撃とクロスカントリーを組み合わせたバイアスロン。女子24キロリレーでのウクライナの下馬評は決して高くなく、銅メダル獲得さえ難しいと見られていた。しかし、4人の選手たちは何かに取り憑かれたような神がかり的な力を発揮した。
先頭のビタ・セメレンコ(28)がまず3位につけ、2番手のユリア・ジマ(23)が伏射、立射とも1発も外すことなく10連続で的中させ、トップに浮上。その後は一度も追い付かれることはなかった。優勝タイムは1時間10分2秒5で、26秒4遅れのロシアが3連覇を逸して2位、ノルウェーが3位だった。ジマは「雪質が重くて大変だったけど、スキー板の状態が完璧だった」と喜んだ。
■衝突の犠牲者に黙とう
ウクライナではこの日、保健省が18日と20日の衝突で死者が計77人出たことを明らかにしたばかり。AP通信などによると、試合後の記者会見ではアンカーを務めたオレーナ・ピドルシュナ(27)の提案で、衝突の犠牲者へ1分間の黙とうがささげられた。夫が野党政治家でもあるピドルシュナは「ウクライナの出来事に対して、私たちができることは何なのかを考えていた。きょう、それができた」と静かに語った。
また、ウクライナ選手団の中には、政府に抗議し、競技を棄権して帰国する選手も出ていたがピドルシュナは「私たちはプロであり、15年以上も練習してきた。故郷で何が起ころうとも、競技に出て勝つことこそが母国のためになると信じた」と言葉を強めた。
ビタ・セメレンコは「私の人生の夢、ウクライナの夢が叶った。祖国を愛するなら、暴力は鎮めてほしい」と語り、フラワーセレモニーで涙が止まらなかったビタの双子の姉妹で3番手に走ったワリ・セメレンコ(28)は「最初はスキー板で涙を隠そうとしたが、これは私だけの涙ではない、ウクライナ全体の涙だと思って、泣けるだけ泣いた」と言葉を絞り出した。
■「最高のメッセージ」
会見には、陸上男子棒高跳びで一時代を築いた、ウクライナ五輪委員会のセルゲイ・ブブカ会長(50)も同席し、ブブカ氏は「試合前に困難な状況を乗り越えるために必要なことを伝えた。この勝利は、ウクライナのより良い未来への最高のメッセージになる」と感激の面持ちで話した。