主人公は29歳の青年、葉太。初めての一人旅、初めての海外旅行にガイドブックを丸暗記して臨んだが、滞在初日にしてかばんを奪われる。犯人を追いかければいいものを、周りの目を気にし、何気なさを装ってただ笑うだけ。領事館にも「初日で盗難(笑)」と言われるのをおそれてなかなか行くことができない。こうして、羞恥心でがんじがらめになった葉太のニューヨークでのサバイバル生活が始まる-。
葉太というキャラクターが誕生したきっかけには、あるメッセージがあった。「今までの私の作品には、どちらかというと自意識からうんと遠い、天真爛漫なタイプの登場人物が多かった。読者の方からも『ありのままの自分でいいんだと励まされました』というお手紙をもらうことがある。すごくうれしいんだけれど、人間って天真爛漫な人ばかりではない。逆にそういう人を見ると『私ってなんて汚いんだろう』って思ってしまうこともある。葉太という人を描くことで、『汚い人なんかいないよ』と、自分にも、読者にも伝えたかった」