米航空宇宙局(NASA)は16日、国内の民間宇宙企業と共同で月に物資を運ぶ輸送システムを構築する計画を発表しパートナー企業の募集を始めた。月の資源探査が目的で、2010年にバラク・オバマ政権がいったんは白紙化した月面基地の建設も想定しているようだ。月では中国が昨年12月に無人探査車の着陸に成功し、14日には本格的な資源探査を行った。米国は現在、火星への有人飛行に注力しているが、中国に対抗して月へと回帰。米中による“月面陣取り合戦”が幕を開けた。
「NASAは月に水やその他のエネルギー物質が存在する証拠を確認した。それを手に入れるためには月面探査が必要だ」
NASAの高度探査システム部門の責任者、ジェイソン・クルーザン氏は、輸送システム構築の狙いをこう説明した。
■民間企業と共同で
NASA公式サイトや米メディアによると、物資輸送用ロケットや無人着陸機、探査ロボットなどをパートナー企業と共同開発。30~100キロの小型荷物と、250~500キロの大型荷物の2段階で月面に運び込めるようにする計画だ。月面探査のほか、サンプルの採取・分析、科学実験などを行い、最終的に地球に持ち帰ることを目指す。
3月17日までパートナー企業を募り選定。NASAが技術支援を行うが、米政府は資金を拠出しない。
NASAの有人探査計画部門のグレッグ・ウィリアムズ副補佐官は「宇宙産業界はNASAのために、月面での新しい科学技術発展の機会を創出してくれるだろう」と語り、民間活力に期待を示した。
すでに国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送は、宇宙ベンチャーのスペースXなど民間企業が担っており、月への輸送でも低コストで信頼性の高いシステムの構築を目指す。
NASAは2006年に、長期滞在が可能な月面基地を24年までに建設するとの構想を発表していた。しかし、オバマ政権はより野心的な火星や小惑星への有人飛行に予算を集中するため、10年に計画を白紙に戻した。
■基地建設も想定
輸送システムの構築は月面基地計画復活の布石だ。実際、NASAは今回の発表に先立ち、3Dプリンターを応用して月面に宇宙飛行士が滞在できるシェルターを建設する技術の開発に着手したことも明らかにした。シェルターの材料の90%は月面に存在しているといい、3Dプリンターを輸送できれば、基地の建設が可能となる。
かつて人類初の有人月面着陸を成功させた米国の月回帰は、中国の月進出が無視できなくなったからにほかならない。月には未来の核融合発電燃料として期待されるヘリウム3のほか、ウランやチタンなどの希少金属が大量に眠っているとされる。
こうした資源の獲得を狙う中国は月面探査車「玉兎(ぎょくと)」を送り込み、14日にはロボットアームを使った初の月面科学探査を行った。20年までに採取したサンプルを地球に持ち帰り、25年までに有人月面着陸を成功させ、30年以降には長期滞在が可能な月面基地を建設することをもくろんでいる。
ロシアも月面探査に本格着手する計画を打ち出しており、米中露の覇権争いが原動力となり月開発が一気に加速しそうだ。