アラスカには太陽が沈まない時期がある。有名な白夜の季節だ。日中の気温は30度を超え、強烈な日差しが肌を焦がす。真夜中の太陽は実はかなり厄介で、体内時計は機能しなくなる。結果、寝不足の朦朧(もうろう)とした頭で曇天を待ち望むこととなる。太陽など沈んでしまえ、と毒づきながら。
失って初めてその大切さに気づく、とはよく言われること。ただ頭では理解しているつもりでも、実際に体験してみないと本当の意味は分からない。僕にとっては太陽が教訓となった。
真冬のアラスカ。場所によっては太陽がまったく昇らない地域もある。僕がかまくら生活をするマッキンリー山麓の場合、日照時間はわずか5時間ほど。朝10時半にようやく顔を出した太陽が、午後3時半にはもう姿を消してしまう。しかも太陽は低く山の端をなでるように移動するので、ごく弱い光が辺りを照らすのみである。
同じ太陽であっても、夏のそれをガスバーナーに例えるならば、冬の日差しはせいぜい風にゆらぐロウソクといったところだ。