【本の話をしよう】
志賀直哉の『城の崎にて』(1)を読んだことのある人が、今ではどのくらいいるのだろう? 1917年に書かれたこの作品。ある温泉街で主人公が目にした蜂、ネズミ、イモリの死が淡く描かれる(文庫版でいうなら)わずか11ページの短編だ。志賀は電車にひかれたけがを癒やすために城崎温泉を訪れたのだが、そこで実際に体験したことが、この物語には描かれているという。
僕が初めてその小説を読んだのは中学2年のとき。正直に申し上げて、何がよいものやら全くわからずそのまま通りすぎてしまった。小さな生命の死にとどまるよりは、青臭い毎日をしゃかりきに過ごすことが大切な時期だったということだろう。
ところが僕は、最近ひょんなことから『城の崎にて』をもういちど手に取りひらくことになる。志賀直哉や当時の物書きたちが滞在したという老舗旅館、三木屋改修の際に新しくなるラウンジ空間にライブラリー(3)をつくることになったからだ。
本棚は前向きなもの
三木屋のある城崎という町は兵庫県の豊岡市にある。(どこに位置するのか分かりますか?)日本海まで目と鼻の先のエリアだが、東京から向かうならば、伊丹空港経由で但馬空港まで。京都から特急電車に2時間半程ゆられて行くという手もある。