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【軍事情勢】和菓子のおもてなしと月餅の毒

2013.11.17 00:08

 その日本人は9月、東ティモール外務省1階大ホールに掲げられた《万里の長城の刺繍》を見て言葉を失う。幅10メートル/縦2メートルのスケールにだけではない。「外国の賓客を招く“政府の客間”を中華風にする違和感」にもだ。謎解きは簡単。庁舎は中国の無償援助で建設されたためだ。2008年の国慶節=中国建国記念日は外務省で催されたが、多くは「落成の返礼」と観る。外務省ばかりか大統領府や国防省・国軍司令部の建物も中国の無償援助で成った。

 ■中国の露骨な「侵略」

 機密性の高い庁舎建設に外国政府を絡ませるのは、盗聴器を埋め込まれるかもしれず、危険過ぎる。しかし、東ティモールには大国の支援が不可欠。中国も東ティモールが埋蔵する石油・天然ガスが欲しい。他の太平洋諸国に対するのと同様、外交関係樹立で中国か台湾かの二者択一を迫る圧力外交でもある。マラッカ海峡や南シナ海において紛争→封鎖が起きれば、東ティモール西部のロンボク海峡~マカッサル海峡~フィリピン諸島東方を抜けるルートは重要な代替航路だという、戦略的要衝としての重要性を強く認識してもいる。

 ただ、中国の業者と労働者を引き連れ建設するガメツイ手法では、地元が受ける雇用・経済上の恩恵は限定的。評判は芳しくはない。利権を貪り喰らう中国の露骨な「侵略」に、シャナナ・グスマン首相(67)も昨年4月の国防省落成式でクギを刺した。

 「中国が支援の見返りとして、わが国の地政学的位置を利用した地域覇権などを求めることはないと理解している」

 東ティモールの価値は、日本にとっても極めて高い。もっとも、《和》を大切にする日本人には、中華民族のような傲岸な上から目線は採れない。証を現地の報道に見る。

 新聞・テレビは9月、一斉に「ポルト・イワオ・キタハラ完成」を報じた。グスマン首相のたっての希望で命名された、東ティモールの飛び地オエクシに日本のODA=政府開発援助で完成した港湾施設の呼び名である。2008~11年まで大使を務めた北原巌男・元防衛施設庁長官(66)の氏名から採ったのだった。北原氏の「控えめな性格=和の心」は関係者の誰もが知るところ。グスマン首相は、強欲な中国人とは好対照な北原氏を通して、日本への良き印象を深めていったようだ。

 ■東ティモールの恩人

 港建設に向けた署名は10年12月。ところが11年3月に東日本大震災が起きてしまう。関係者によると、北原氏は首相より電話を受ける。

 「凄まじい被害状況だ。まず貴国の復旧・復興が先決だ。われわれは待つ」

 11年8月の起工式と今年9月の引渡し式に、贈られた民族衣装に身を包んだ北原夫妻の笑顔があった。首相は「キタハラは今やオエクシの人となった」と、最大の賛辞を口にした。

 オエクシを含め東ティモールには、陸上自衛隊も02~04年にPKO=国連平和維持活動で駐屯。道路・橋や灌漑用水、小学校運動場、ゴミ処分場の建設を手掛けた。以来、自衛隊は東ティモール軍との結び付きを深めていく。戦略的要衝だからだが、PKO後のフォローアップも必要なのだ。12年以来続く、陸自の人道支援・災害救援に関わる《能力構築支援》の取り組みは外国、とりわけ中国にはまねのできないきめの細かさ。「東ティモール軍には、車両整備という概念がない。故障したら野積みにされている」という現状を調査。自動車整備士3級の技術レベルを念頭に、陸自の専門家が技術指導や座学を実施する。

 一連の支援に当たり自衛隊は日本同様、中国軍による海洋覇権に危機感を抱く地域大国・豪州を意識する。12年の日豪外務・防衛閣僚会議(2+2)、今年の日米豪軍高官級セミナーでは、太平洋・東南アジア諸国への人道支援・災害救援と、そのための《能力構築支援》についての協力でも合意した。

 実際、豪陸軍は10月、東ティモール軍などとともに災害に対応した指揮所演習を実施。その際、陸自は豪軍に掛け合い、自治体との協定や一般電話回線確保といった、東日本大震災の教訓に関する東ティモール軍への講義日程を譲ってもらった。

 ■ヒト・カネ、投入量に差

 それでも尚、自衛隊によるヒト・モノ・カネの投資はまだまだ不足している。防衛駐在官=駐在武官はインドネシアとの兼轄体制すらできていない。

 豪軍の場合、作戦や兵站、通信を専門とする軍人ら28人が常駐。東ティモール軍に武器・通信の扱いや訓練・建設技術はじめパソコンや英語まで指導する。宗主国ポルトガルも、退役陸軍大佐を国軍副総司令官顧問として送り込む。

 投資不足は否めない日本にあって、防衛大学校への留学生受け容れが光る。現在10人が在校するが内、防大初の女性留学生が2人、グスマン首相の強い希望で入校した。首相は北原氏にこう求めたといわれる。

 「ジャングルで24年間、対インドネシア独立回復闘争を戦ってきた。村の女性がわれわれを匿って殺されるなど、女性は一番つらい思いをしてきた。平和と安全を女性の視点でも考えられるようになったら…」

 多くの血を流し勝ち取った独立(02年)。《和》の心を伴った癒し系の支援が、東ティモールでも求められている。

 自衛隊による《能力構築支援》はベトナムやモンゴル、インドネシアでも始まり、パプアニューギニアも検討対象となった。カンボジアでは1月、陸自による国軍PKO要員への《能力構築支援》開講式が行われた。中国軍はカンボジア軍士官学校との式典を、なぜか同じ日に実施した。札束で頬を張るが如き中国のやり方に、受け入れ国も「危険(アブナイ)な臭い」は嗅ぎ取ってはいるようだが結局、フン・セン首相(62)は中国軍との式典に参加した。

 ところで、中国の菓子《月餅》は昨年、鳥インフルエンザや口蹄疫による汚染で各国の禁輸対象となった。アジアの指導者が、《和》の心を詰めた《和菓子》に心惹かれながら《毒饅頭》に手を付けるのなら、ヒト・モノ・カネの投入量の違いだろう。そういえば、化粧箱に現金や貴金属を忍ばせ、賄賂として贈る隠れ蓑としても、《月餅》は重宝されているとか。(政治部専門委員 野口裕之)

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