米テキサス州の銃器専門メーカー「ソリッド・コンセプツ」は8日、3次元データを基にプラスチック(樹脂)や金属で立体を作る3Dプリンターを使って、市販品の拳銃のコピーを金属で製作し、実弾を発射することに成功したと発表した。米国では最近、3Dプリンターを用いて樹脂製の銃が複製されて問題視されたが、金属を素材にした市販品の複製は世界初。今後、3Dプリンターを活用すれば、個人が自宅で高性能な拳銃を手軽に製造することも可能となり、さらに論議を呼びそうだ。
■1台7000万円超
今回、複製の元になった拳銃は、米国の銃器設計者ジョン・ブローニングが設計した自動拳銃M1911。33個の部品で構成され、その大半はステンレス製だが、グリップは炭素繊維でできている。ソリッド・コンセプツによると、金属を加工できる特殊なプリンターを使用し、弾倉など一部を除いて全部品を合金やステンレスで複製して組み立てた。これまで50発以上の発射実験を行い、約27メートル先の標的の中心部に命中させたという。
ただ、廉価なものなら十数万円程度で手に入れられるようになった3Dプリンターだが、今回使った3Dプリンターは1台約75万ドル(約7440万円)と高額なものだった。
犯罪への悪用が懸念されるが、米CNNによるとソリッド・コンセプツの技術者は「3Dプリンターを使って銃をより安価に、より簡単に製造できるようにするのが目的ではない。3Dプリンターは単に一部のマニアが、趣味でフィギュア(人形)などのプラスチック製品を複製するための物ではなく、まじめな商業利用も可能であることを証明したかった」と話している。
米国では今年5月、テキサス州の非営利団体ディフェンス・ディストリビューテッドが16の部品からなるプラスチック製の銃を製作し、3Dプリンターを使った複製の仕方を設計図とともにネット上に公開。50万回を超すダウンロードがあり、論議を呼んだ。その後、米国務省の命令でページは削除され、団体のホームページも閉鎖された経緯がある。
■プロシューマー時代
かつては数億円もした3Dプリンターだが、安価になるにつれて、その有用性の影の部分にもスポットが当たる事態になっている。ただ、活用の道は際限なく広がろうとしている。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)は現在、戦車を3Dプリンターで製造するプロジェクトを進めている。いずれは世界中の要衝の地に3Dプリンターを配置し、紛争時には戦車を搬送するのではなく、現地で3Dプリンターを活用して戦車を大量に製造しようという構想だ。米航空宇宙局(NASA)も、3Dプリンターの遠隔操作で月面に基地を築くことが可能かどうか、検討に入った。
アルビン・トフラー氏(85)は1980年、その主著「第三の波」の中で、3Dプリンターが普及する社会の到来を予告し、産業構造が変化すると指摘した。作る人(プロデューサー)と使う人(コンシューマー)が別々ではなく、一体となったプロシューマーの時代が来ると説いたがまさに三十余年を経て現実になろうとしている。だが、プロシューマーの時代にはさまざまな危険が宿っているのも確かだ。