「いい子にしてろよ」
「なかなか帰ってきてくれないから、毎日お祈りしてるんだ。早くお父さんを帰してくださいって」
今も行方が分からない柳瀬忍さん(37)の長男、海君も登校。「何をしたいとか、なかなか思いつかないけど、学校は久しぶり」と話した。
台風26号が迫る(10月)15日夕、忍さんは一人息子を父、政明さん(61)宅に送り届けた。海君がいつも楽しみにしている1泊2日のお泊まりのはずだった。
「明日迎えに来るからいい子にしてろよ」。そう言い残した忍さん。だが、自宅は土石流で跡形もなくなり、忍さんは海君の前から消えた。母親の光海(みつみ)さん(28)は大けがをして島外の病院に入った。
休日には学校の校庭でボール遊びをしてくれた。「お父さんのキック力はすごいんだよ。あの木の上まで飛ぶんだから」。海君は祖父宅の脇に立つ木を指さしながら誇らしげに話した。
「あんまりしつこくお願いしたから神様が意地悪して、お父さんを帰してくれないのかな。でもお願いするしかないもんね」
島には日常が少しずつ戻ろうとしているが、小さな胸に開いた穴は埋まらない。(SANKEI EXPRESS)