スタントも早回しもない大殺陣も本作の見どころの一つだが、監督が若林に求めたのは「静の演技」であり、その要求に応えることはベテラン俳優といえども至難の業だった。「僕は『動』の芝居をする役者だった。刑事物でも事件現場へ急行したり、犯人を追いかけたり、よく動いていたでしょう。極端に言えば動かないと何もできない役者なんですよ。それが『話さなければ、話さないだけいい』というわけで…。では、眉一つ動かさないで、脚本に書かれた情景を出せるか、その難しさを味わってみようと思い直しました」
取材当日、若林は完成した作品を初めて鑑賞したが、自己評価は厳しい。「できてないんだなあ。三船敏郎さんの『上意討ち 拝領妻始末』(1967年)と比べると、僕とはスケールが違うんだよな」とポツリ。