「同盟国」シナリオ
従来、中国は第二次世界大戦を日本軍国主義に対する戦争と規定していた。それを戦後65周年にあたる2010年頃から、反ファッショと言い換え、ソ連、米国とともに中国も、ドイツ、イタリア、日本などのファッショ陣営に対する戦争に連合国の一員として参加したという物語の構築を始めた。実際は、米ソとともに連合国の一員として参加したのは中華民国だ。現在の中華人民共和国は、中華民国との連続性を否定している。それだから、現在の中華人民共和国が、米ソの同盟国だったという物語には無理がある。しかし、中国の歴史カードを用いた外交攻勢は一定の成果をあげている。
ロシア外務省の中にも第二次世界大戦で南クリル(北方領土に対するロシア側の呼称)は合法的にソ連に移転したので、日本の領土返還要求を拒否すべきだと主張する強硬派がいる。このような勢力は、バリの中露首脳会談における反ファッショ統一戦線という物語を、北方領土交渉を混乱させる目的で利用するであろう。
歴史カードを用いた中露連携を切り崩すロビー活動が、日本にとっての焦眉の課題だ。モスクワの日本大使館員、特に原田親仁(ちかひと)大使によるクレムリンへの働きかけが決定的に重要になる。(作家、元外務省主席分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS)