2019年は「EQマネジメント」が来る! “感情知性”をコントロールしよう

2019.1.7 07:00

 【社長を目指す方程式】

 こんにちは、経営者JPの井上です。

 最近改めて、EQ(EI)に注目が集まっています。「ハーバードビジネススクールレビュー」などでも関連書籍シリーズが発刊され、2019年はリーダーのEQ力に光が当たる年となりそうです。

 いわゆる「頭のよさ」を指し示すIQ(知能指数)に対して、EQとは「心の知能指数」と言われる“感情知性”を指し、米国の心理学者ダニエル・ゴールマン氏が1995年に著書で提唱したことがきっかけとなって広まりました。同書の翻訳が1996年に日本でも出版され最初のEQブームが起きました。

 EQは「心内知性」=自分を知る力、「状況判断知性」=自分を相手に伝える力、「対人関係知性」=相手を知る力、の3つからなります。

 そもそも、優れた経営者というものはIQとEQを兼ね備えています。田中角栄の名言に「人は理では動かず情で動く」というものがありますが、私はEQを日本に導入された高山直さん(株式会社EQ 取締役 会長)から教えていただいた、「人は「理」(左脳、IQ)で理解し「情」(右脳、EQ)で動く」というフレーズをいつもお話ししています。

 社長になる人はIQだけでなくEQも使える人。IQは「できる人」(知識やスキルの優れた人)、EQは「できた人」(人間性の優れた人)。当社でよく使うフレーズに「できる×できた人」というものもありますが、専門性の切れ味鋭さも大事なのですが、同時に(あるいはそれ以上に)人としての成熟、包容力なども、トップになるには欠かせません。

 今回はEQを使ってマネジメントするとはどういうことか。その一部をご紹介してみます。

 ◆「社会的自己意識」「抑うつ性」「特性不安」からマネジメントする

 「課長、今度のプレゼン、僕、うまくやれるでしょうか?」

部下から明日のクライアントへの提案について、こんな相談がありました。上司のあなたから見ていて、彼の準備はなかなかよくできており、問題ないと思えたため、こう答えたとします。

 「おお、大丈夫だよ。自信を持って臨みなさい。私も同席することになっているし、ここはどーんと、大船に乗った気持ちで!」

 あなたはてっきり、「そうですね!頑張ります、よろしくご支援ください!」というような反応を期待していましたが、部下の反応は、「……、は、はい…、わかりました…」。なにやら、逆に不安げな様子です。一体、何があったというのでしょう?

今回の社長を目指す法則・方程式:

EQ理論=心内知性+状況判断知性+対人関係知性

 できるリーダーはノセ上手。部下のタイプを見て、言い方を変えています。同じことを言っても響く人と響かない人がいます。

 たとえば上記のように、「大丈夫」「頑張れよ」と言われたときに、勇気づけとしてとらえる部下と、単にプレッシャーととらえる部下と、両方が存在します。どの人にも同じように声をかけるのが平等・公平と思われている方も多いのではないかと思いますが、同じ言い方では相手のとらえ方が、結果、千差万別、変わってしまうのです。

 まず、部下が、以下のどれに該当するのかに着目してみましょう。

・周囲からの目をどうとらえているのか

・過去のことをどう見ているのか

・未来をどう見ているか

これは、心の知能指数といわれる「EQ」の24要素の中から3つ紹介するものです。

(1)社会的自己意識

 社会的自己意識とは、「自分が周囲からどう見られているか」を意識する度合いを現します。

 これが高い人は、周りからどう見られているかを非常に気にします。よって、「あなたのこういう行動がお客様から評価されているよ」という言葉が励みになります。一方低い人には「あの人はあなたのことをこう思っているよ」と伝えてもそんなに響きません。ある意味唯我独尊ですが、周囲の目を気にしない分の腰の軽さや大胆さがあります。

(2)抑うつ性

 抑うつ性とは、過去に対して意識の行く度合いを表します。低いと過去についてくよくよしたり、引きずったりします。

 これが高い人は、過去を引きずらないという良い面はあるのですが、一方で、過去から学べないという側面もあります。ポカを繰り返すタイプですね(笑)。「そういえばあのときこういうことをしたのがまずかったよね」と気づかせてあげることが大事です。

 一方で、高い人にとっては不安になるので(また、自分自身が重々その失敗を痛感しており引きずっていることが多いので)、決してぶり返しツッコミをしてはいけません。

(3)特性不安

 特性不安は未来についてどう捉えるかを現します。高い人は「なるようになるさ」ということで、未来があいまいでも、そのほうが青天井でいいや、と思うタイプです。

 一方、低い人は未来が見えないと心配になります。低い人の場合は、計画をきちんと立てさせてあげて、こんなふうにやったらうまくいくよね、と想定させてあげることが大事です。

今回の社長を目指す法則・方程式:

EQ理論=心内知性+状況判断知性+対人関係知性

 創業経営者の方は総じて特性不安が高い方が多いです。ただし、そういう会社の部下の人は、カリスマ経営者の下で方針・指示に忠実に従い仕事をする人が多く集まる傾向があり、特性不安が低い方が少なくありません。

 この場合危険なのは、経営者の方針がいきなり変わったり、あるときからあやふや・曖昧になってしまったりするときに、社員たちが、自分たちは今後どうなってしまうんだろうと集団不安に駆られることです。トップは明確な方針を、しっかり出し続ける必要がありますね。

 これが高い部下は、基本的には、ガンガンいかせればOKです。あまり細かいことをいわなくても「いっちょやってみますわ!」などと言って飛んでいきます。リスクとしては、うかつな人も多いので、ざっぱくなまま森につっこんでいくことのないように、状況を確認してあげたほうがよいですね。

 冒頭の部下は、反応から見ると、おそらく特性不安が低いタイプだったのでしょう。

 あなたは、「これこれこうした準備がしっかりできていて、クライアントはここをこう評価してくれると思うから、予定通りの資料でしっかり伝えることに徹しよう。私もプレゼン中にはフォローするから、大丈夫」、というように、具体的に「大丈夫な論拠」を伝えてあげることが必要でしたね。

 ◆「セルフエフィカシー」「アサーション」そして「感情的被影響性」の注意点

 次に、部下が、以下のどれに当てはまるかに着目してみましょう。

・気力に満ちあふれているか否か

・自己主張をしっかりできるか否か

・合理的か、情緒的か

 これも、心の知能指数といわれる「EQ」の24要素の中からの3つです。

(4)セルフエフィカシー

 自ら気力を創出する力です。これが高い人は自信があり、なんでもやっていけると思っています。低い人は、いまひとつ自分に自信を持てておらず消極的になりがちです。

 セルフエフィカシーが低い人に、「頑張れ」とか「大丈夫だ」と言うのは、危険です。自信を持てていませんから、その言葉がプレッシャーになり、ストレスを与えてしまいます。結局は、その人の足を止めるようなことになるでしょう。冒頭の部下は、セルフエフィカシーも低い可能性が高いですね。

 特性不安の対処では、未来の計画を見せてあげることが大事でしたが、セルフエフィカシーが低い人に対しての「こうやればうまくいよね」という具体的なプロセスを参考情報として提示してあげることの意味合いは、石橋をたたかせて自分なりにいけるぞと思わせてあげることにあります。

今回の社長を目指す法則・方程式:

EQ理論=心内知性+状況判断知性+対人関係知性

(5)自主独立性/アサーション

 自分を積極的に主張することができる力です。「課題動機型」(仕事の課題・テーマそのものが行動の原理となる)の人に比較的これが高い人が多いですね。ちなみに「課題機動型」と対照的なのが、「関係機動型」(人間関係が行動の原理となる)です。

 「課題機動型」が高い人にとっては、ボスがあれやこれや言うことがうざいのです。ですから、「もう、信頼して任せたぞ」と、まさしく委任型でマネジメントしましょう。こちらが下手なコメントをすること自体が逆効果になることもあります。「それいいね」と言っても、(「あなたにいいねと言われる筋合いはないよ」「そんなのわかりきったことですよ」)なんて思っていたりもしますので、ご用心です。

 アサーション力は高いので、仕事はしっかりやりますから、とにかく細かいことを言わずに、前向きな意味で放っておきましょう。遂行能力を認めてもらうことが大事なタイプなので、ぜひ、「さすが、うまく進んでいるね!」とほめてあげるのが得策です。

(6)感情的被影響性

 簡単にいうと、相手の感情に影響を受けやすいかどうか、ということです。一般的に、経営者の方は低く、女性には高い人が多い傾向があります。

 たとえば、これが高い人は、道端で女の子が泣いているのを見て、自分もわっともらい泣きしたり、怒っている人を見ると自分もドキドキ、心が揺れてしまいます。こんな風に、相手の感情に同調しやすいのです。

 一方、感情的被影響性が低い人は、泣いている女の子を見ると、「どうしたんだろう? なぜ泣いているんだろう? どうしたら助けてあげられるんだろう」といった考え方をします。感情的に同調するというよりも、状況を客観的に判断するというスタンスでしょうか。

 感情的被影響性の高い人を情緒的に動機づけると、ちょっと危険です。

 ムードに流されやすいので、「よしいくぞ!」となったときにワーッと高揚するのはいいですが、気持ちが高ぶっているだけで実がついてきていないなんていうこともありえます。

 また、仕事で失敗したり、お客様からクレームをもらったときなど、ストレス度が高いときは、頭が真っ白になるので、ちょっとクールダウンさせてあげることが大事です。感情的、情緒的な情報は可能な限りなくして、仕事のプロセスや状態に焦点をあてるようなコミュニケーションを心掛けます。「どうした、お客様が怒っているぞ」とか「大変だな、なんとかしなきゃな」といった感情を揺さぶる情報は脇に置いておきます。そして、「ここの改善策をまず考えてみようか」とか「もう一度、あそこの情報を整理し直して、優先順位を確認してみてくれ」など、具体的なプロセス・作業にフォーカスさせてあげましょう。

 一方、いい状態の場合は、すぐやる気に火がつきますから、感情をたきつけて、フロー状態で「いこうぜ、今日も!」のようなノリが効くという部分もあります。

 ポジティブな状況ではアクセルとして使い、ネガティブな場面では刺激を回避する。こんな使い分け方もありますので、ご参考に。

今回の社長を目指す法則・方程式:

EQ理論=心内知性+状況判断知性+対人関係知性

 ◆EQは開発できる可変的なもの ぜひ「社長のEQ」を身につけよう

 部下の感情タイプ別のマネジメント方法についてご紹介いたしました。

 EQのサーベイ指標からの状況把握と対応策ですが、平素から部下の行動や反応を見ていれば、ある程度以上、ご紹介した各タイプは推測できると思います。こうした特性を持っているのだと気づいたら、それに合うようなコミュニケーションを取るのが、デキるリーダーの上手いやり方であり、優れた経営者、社内外の人たちを惹きつける力を持つカリスマ経営者たちは皆、こうしたEQ活用を意識・無意識に行なっています。

 そして大事なことは、EQは開発できる可変的なものであるということです。ここまで説明が長くなってきましたので、皆さんご自身のためのEQ開発についてはまた改めてご紹介してみたいと思いますが、例えば活躍する社長は「私的自己意識が高い」「社会的自己意識が低い」「抑うつ性、特性不安共に非常に低い」「気力創出力系因子が全般的に非常に高い」「対人関係知性、状況判断知性共に全般、非常に高い」「情緒的感受性については非常に低い」といった傾向があります。

 社長を目指すあなたは、ぜひ、EQコミュニケーションを駆使し、「社長のEQ」を身につけましょう!

【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)

株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
経営者JPが運営する会員制プラットフォームKEIEISHA TERRACEのサイトはこちら。

【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。

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