半数超が「外国人雇用したい」 改正入管法で1万社大調査…不安、課題も山積

2019.1.5 09:05

 東京商工リサーチが実施した外国人雇用に関する調査で、外国人を「雇用したい」企業は5割を超えていることがわかった。改正出入国管理法が成立し、外国人雇用の拡大が人手不足の解消に繋がることを期待する声がある一方、在留期間や賃金への不安など多くの課題も浮かび上がった。(東京商工リサーチ特別レポート)

 2018年12月8日、改正出入国管理法が紆余曲折を経て国会で成立した。人手不足が深刻化するなか、外国人労働者が単純労働に従事することが認められた意味は大きい。

 一方、アンケートでは外国人労働者が低賃金や在留期間の短さなど、様々な問題を抱えている実態も浮かび上がった。企業側も外国人労働者の雇用に際し、日本語能力や受け入れ態勢の整備など、多くの課題を抱えている。外国人労働者の雇用は、企業や地域、地方自治体など様々な方面からの取り組みが必要になっている。

◆「人手不足」が約7割

 東京商工リサーチが2018年11月21日~12月4日にWEBアンケートを実施し、有効回答1万353社を集計、分析した。

 回答した1万353社のうち、「人手は充足している」は3126社(構成比30.2%)と3割にとどまり、「人手不足である」は7227社(同69.8%)と約7割に達した。

 規模別では、「人手不足である」は大企業で70.8%、中小企業で69.6%と、ともに約7割を占め、規模による差はほとんどなかった。

 業種別では、「人手不足である」が建設業83.8%、運輸業で81.1%と突出、労働集約型産業で深刻な人手不足が起きている。逆に、金融・保険業は53.1%、不動産業は52.8%と、50%台で踏みとどまっている。

 金融・保険業は、専門的知識が必要な一方、業務自動化でRPA(ロボットによる業務自動化)の導入や、キャッシュレス化に伴う支店閉鎖、ATM設置数の削減なども背景にあると考えられる。

◆製造業で「雇用している」が4割超

 外国人労働者を「雇用していない」は、6027社(構成比58.2%)で6割弱を占めた。次いで、「雇用している」が3134社(同30.3%)、「雇用を検討している」は1192社(同11.5%)。

 規模別では、「雇用していない」は大企業が57.3%、中小企業が58.3%とほとんど差がなく、「雇用している」もともに30%台で差はなかった。

 業種別では、「雇用している」の最多は製造業で1232社(同42.1%)と唯一、4割を超えた。一方、建設業は「人手不足である」が83.8%と高かったが、外国人労働者の雇用は19.8%にとどまる。建設業は労働環境に加え、過重労働の問題なども背景にあると思われる。

 在留資格が拡大した場合、「雇用したい」は5335社(構成比55.3%)、「雇用したくない」は4307社(同44.7%)だった。

◆単純労働の雇用需要はまだ企業に浸透せず

 業種別では、「雇用したい」は金融・保険業、不動産業が約4割にとどまり、他の業種に比べて低かった。

 拡充される単純労働者の雇用需要は、現状はまだ企業に浸透していないことがうかがえる。

 人手の充足別でみると、「雇用したい」は人手不足で4173社(同62.0%)と、6割を超えた。

 現在の雇用状況別でみると、「雇用している」企業では「雇用したい」が8割超と前向きな姿勢がみられた。

 「雇用したくない」と回答した4307社にその理由を尋ねたところ、4274社から回答を得た。「社内の受入体制が整っていない」が2499社(構成比58.4%)で最も多い。次いで、「任せられる職務がない・少ない」が2043社(同47.8%)、「文化の違い」が1763社(同41.2%)だった。また、住宅確保や行政の支援なども浮かび上がっている。

 実際に外国人労働者を「雇用している」と回答した企業でも、「日本人と同等以上の賃金保障が難しい」との回答が1割を超えた。

◆技術承継への対応は先送り

 本調査で、外国人労働者では現行の最低賃金以下の雇用が実際に存在し、また、雇用側・被雇用側で数々の問題を抱えていることも明らかになった。

 改正出入国管理法の成立で外国人雇用が進み、人手不足が緩和することが期待される。だが、当面の量的充足にとどまり、長期的な技術承継、事業承継への対応が先送りにされた感もある。

 国会でも労働条件の劣悪さ、賃金の低さが取り上げられたが、本問5で改めて最低賃金以下の外国人がいることが確認された。また、本問8で外国人労働者からのクレームで、「賃金の低さ」が最も多かった。今回の改正出入国管理法では、日本人と同等以上の賃金保障が定められているが、実際に遵守されるか確認が必要だろう。

 在留資格の拡大で外国人雇用を希望している企業は、企業規模を問わず5割以上あった。現状の日本の労働市場では、すべての求人を賄うのは不可能だ。外国人を雇用する際の懸念事項について、「日本語能力」や、「受け入れ態勢が整っていない」、「手続き(在留資格・社会保障など)の煩雑さ」が上位を占めた。

◆官民、自治体が一体となったサポートが必要

 外国人雇用数は「1-5人」が1685社(構成比56.5%)と最も多く、中小企業でその割合が高い。大企業より人手不足が深刻な中小企業では、その不安に対応する時間も資金余力もないことは明らかだ。それらを払拭し、新たな雇用に踏み出すには、行政のサポートが不可欠だろう。

 ただ、負担を自治体任せにせず、政府も一体となった全国画一サポートプログラムなど、手厚い取り組みが求められる。

 外国人雇用に抱える不安について、「治安の悪化」が6割弱あった。日本型地域コミュニティーに加え、在留期間が限られていることが地域に溶け込めない一因でもあり、信頼関係の構築に障壁となっていると思われる。外国人労働者が日常生活をより円滑に行えるよう互いの文化を尊重するサポートも必要だろう。

 また、外国人労働者の問題と企業の業務効率化や生産性向上は分離して考えるべきだろう。

 自由回答欄で、外国人雇用の増加が日本人の賃金上昇の抑止力となることを懸念する声もあった。その一方で、外国人雇用の拡大が人手不足の解消に繋がることを期待する声もある。

 低賃金や失踪者の多さなど、新法成立後も山積する問題の解決は一企業では難しい。外国人労働者の受け入れは、政府、自治体、企業、そして地域が一体となった取り組みが急務となっている。

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