新型コロナウイルス感染拡大で困ったのは人間だけではない。動物もそうだ。
体調不良になっても、コロナ以前のように動物病院へ連れて行きにくくなった。病院では三密を避けるため院外で待たされてしまう。その結果、ペットの体調をさらに悪化させることになり、問題視されていた。
こういった状況を解決しようと始まったサービスが、いま注目を集めている。
獣医師による往診サービスを提供する「アニホック往診専門動物病院(以下アニホック)」だ。これは、獣医師が専用の往診車で飼い主の自宅へ出向き、ペットの診察や内科治療を行うサービスである。現在3人の往診担当獣医師と動物看護師1名、オンライン相談サービスの獣医師が複数名常駐しており、専用のウェブフォームや電話、LINEから予約すれば、最短で当日に往診サービスを受けられる。
このサービスを始めた理由をアニホックの院長で獣医師/株式会社TYL取締役・藤野洋さんに聞いてみた。
「20年間、動物病院でいろいろな動物を診察してきました。その中で通院が難しいペットや飼い主さんがたくさんいたのです。高齢者や身体に障害をお持ちの方ですと、外出が困難です。その上、コロナの影響で、さらに病院へ行きにくくなっています。こういう事情で往診を望む声が多く寄せられ、今年5月にサービスを始めました」(藤野洋さん、以下同)
アニホックは、車内で診療ができる往診専用車を所持しているのが特徴の一つ。自動血球検査装置や血液性化学検査装置、超音波画像診断装置、動物用の眼圧計、オゾン発生装置、血圧計、心電図、顕微鏡など、病院と同様の医療機器を搭載している。この専用車で飼い主を訪問し、希望に応じて車内や自宅、指定の場所などで診療を行う。
「従来の往診は、その場で検査結果がわからないというネックがありました。しかし、急性疾患の場合はすぐに結果を見て対処しなければいけません。この問題を解決するために、往診車には病院と同様の診療機器を備えています」
先生がここまで話を聞いてくれたことはなかった!
往診のメリットはどこにあるのだろうか。
「動物病院は常に混雑しているところが多く、診察がどうしても流れ作業になってしまいます。一匹のペットを十分に診る時間がないのが現状です。しかし、往診ですと飼い主さんとゆっくりコミュニケーションを取ることができます。往診先では、先生がここまで話を聞いてくれたことはなかった! と感激する飼い主さんも少なくありません。また、住環境についてアドバイスもできます。ペットを飼う上で住環境の整備は、とても大事なことなのです。さらに、ターミナルケアが必要なペットになると通院は非常に困難です。しかし往診ですと、ご自宅で済みますので飼い主さんの負担を大幅に軽減できます」
アニホックでは現在、犬や猫、うさぎ、フェレット、ハムスターを診療対象にしているが、往診を依頼されるのは、慢性疾患を抱える老犬、老猫が多い。医療技術の進化に伴い、動物の寿命が伸びた結果だ。
「以前、がんになった猫を診察したことがあります。抗癌治療を続けていましたが、入院が必要な状態になりました。しかし、最期は自宅で看取りたいというご家族の思いが強く、往診でターミナルケアをすることになったのです。週に3回点滴治療を行い、猫は苦しむことなく眠るように息を引き取りました。その時、ご家族からとても感謝されたことは、いまでも思い出します。入院したままペットが亡くなってしまうと、後悔されるご家族が多いのですが、自宅でペットを看取った飼い主さんは、ペットロスがさほど長引かないと感じています。近年、在宅療法が増えていますが、ペットも同様に慣れた場所で最期を迎えるのが幸せだろうと思います」