山肌を削り、環境を破壊しているかのように見えるスキー場だが、実は全国的に草原が減少する中で、草原に住む生物たちにとっては残されたオアシスだ。スキーやスノーボードをすることが、SDGs(持続可能な開発目標)の一つ「陸の豊かさも守ろう」につながると浸透すれば-。ピーク時から愛好者人口が3分の1程度に減少したスキーも今一度、見直されるかもしれない。
ゲレンデに山野草
9月末、長野県須坂市の峰の原高原こもれび広場近くの「山野草園」では、ウメバチソウ、エゾリンドウ、ワレモコウ、キキョウなどいろいろな花が咲いていた。ウメバチソウは、昭和55年に出版された「花の百名山」(田中澄江著)で地元の根子岳の花として紹介され、この地を代表する存在だ。
現地の保護活動をしているのが任意団体のMiNe(マイン)。代表でペンション経営者の福永一美さんは「夏のゲレンデで、(背が高く、繁殖力の強すぎる)ススキを刈り、外来種を抜くなどしている程度」というが、季節ごとに咲く花やチョウを見たり、撮影したりしに来る人も多いという。
峰の原高原は、昔から飼肥料や燃料を採取するために利用されていた草原で、昭和46年から長野県がスキー場やペンション村を開発。翌47年に両親と移住してきた福永さんによると「当時は木はほとんど生えていなかった」という。平成20年ごろから趣味で、草原の手入れをしてきた。
森になったことがない
一緒に活動している筑波大の菅平高原実験所の田中健太准教授によると「ここは、おそらく何千年も森になったことがない場所」で、たくさんの山野草が残っているという。峰の原高原や隣接する菅平は、明治時代までは一面の草原だったが、100年ほど前から飼肥料の需要減などで、部分的には森になった場所もあるという。
田中さんらの研究では、しばらく森となっていた草原は、古くから草原であり続けた場所よりも、植物種数や希少種数が少ないことが分かっている。「古くから草原だった場所を手入れすることが、生物多様性の維持において特に重要だ」と話す。
明治時代には国土の3割ほどを草原が占めていたという調査もある。菅平では今でも約10%程度あるが、全国的には草原の比率は1~数%にまで減少。「せめて、1%をゼロにしないことがやれることだ」。チョウなどの昆虫や根に寄生する微生物まで含めた生物多様性を守ることは、創薬の“種”である遺伝資源を維持することにもつながるという。
作業の省力化も研究
福永さんによると、約90棟あったペンションは半減。都会のニュータウンと同じように高齢化も進む。「SDGsには持続可能な経済成長もある。忘れられない程度には注目されたいですね」と、草原維持が地元の復興に役立てばうれしいと話す。
田中さんも、ススキだけを選んで刈る現在の方法でなく、種が周囲からも飛んでくることを利用した、より手間のかからない草原維持の方法の開発にも挑戦中だ。
この山野草園は、峰の原高原スキー場の一部。同スキー場は運営業者の交代が続き、昨季から東京の会社が娯楽要素を高めた「リワイルド・ニンジャ・スノーハイランド」として立て直しを図っている。ブームの去ったスキー場は暗いトンネルの中にいるが、前方には明るい光も見えている。(原田成樹)