新潟県内でもインド由来の新型コロナウイルス変異株「デルタ株」の感染が急速に拡大し、医療の逼迫(ひっぱく)が現実味を帯びている。県は、事業者により強い対策を講じることができる蔓延(まんえん)防止等重点措置も視野に、県内全域の飲食店への営業時間短縮(時短)要請などで封じ込めを目指すが、予断を許さない状況が続いている。(本田賢一)
■陽性率が危険水域
県内の新規感染者は8月24日までの1週間で798人に上り、1週間当たりとして過去最高を記録した。これは1カ月前の1週間の6倍の数字だ。検査を受けた人に占める陽性者の割合(陽性率)も同期間に過去最高の7・1%に達した。
厚生労働省の医系技官でもある県福祉保健部の松本晴樹部長は「陽性率が5%を超えると危険な状態」と指摘。知らないうちに周囲に感染者がいて、市中に感染が一気に広がりかねない状況という。
医療の逼迫もじわじわと進み、新潟市内の医療機関では重症患者や救急患者を受け入れる集中治療室(ICU)が新型コロナや熱中症、脳梗塞などの患者で埋まる日もある。その場合、新規に受け入れる患者を市外の病院に搬送し対応しているという。同部は、「救える命を救えない事態だけは何としても回避しなくてはいけない」と、危機感をあらわにする。
総務省の全国調査によると、新潟市消防局では8月8日までの1週間に、救急搬送中に受け入れ先の医療機関がなかなか見つからない事案が12件発生。うち8件は新型コロナが疑われる事案だった。
花角英世知事は「県内の医療はギリギリのところにあり、負荷をこれ以上かけるわけにはいかない。蔓延防止等重点措置の適用についても県内の感染状況をみながら国と協議していく」としている。
■デルタ株の猛威
感染が急拡大した背景には、感染力が強いとされるデルタ株の蔓延がある。感染全体に占めるデルタ株の割合は、7月初旬の1週間が0%だったが、8月に入ると1週間当たり最大96%まで急増。全ての感染がデルタ株になるのは時間の問題とみられており、この割合が増えるにつれて感染拡大のスピードも加速している。
そのデルタ株の猛威に県はどう立ち向かおうとしているのか。松本氏は「時短とワクチン接種などの効果に期待している」と話す。
■時短の効果
飲食店事業者には不評の営業時間の短縮要請だが、行政側はその効果に期待する。感染拡大が著しい新潟市の7月の感染者308人の感染経路をたどると、4人に1人が飲酒を伴う会合がきっかけだった。
「従来の新型コロナは2次会、3次会と参加時間が長くなるほど感染リスクが高まった。デルタ株は1次会だけで全員が感染するケースもあるほど、感染力が強い。飲食を伴う行動に制約を設けることは効果があるとみている」(松本氏)
県は、県内全ての酒類を提供する飲食店などに今月3日から2週間、時短を要請する。
■ワクチンの効果
新潟大大学院医歯学総合研究科の菖蒲川(しょうぶがわ)由郷(ゆうごう)特任教授は、デルタ株へのワクチンの効果について次のように説明する。
「2回目接種以降は、デルタ株に対しても感染予防効果があるほか、90%前後の発症抑制効果があることが分かっている。ワクチンを打っていなければ起きただろう100人の発症のうち、90人前後を抑制できることになる」
高齢者へのワクチン接種をほぼ終えている県内では感染者の9割程度が50代以下となっている。デルタ株との戦いはまずは、若年層へのワクチン接種の進展がカギを握りそうだ。