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もっと知って「ヘルプマーク」、障害者の認知もまだ半数

 十字とハートの「ヘルプマーク」付きスイムキャップを作成し無料配布する大阪のNPO法人の活動が注目を集めている。外見ではわかりにくい病気や障害を伝えるマークはカバン装着タイプが一般的だが、水中でも目につきやすいと好評だ。24日には東京パラリンピックが開幕するが、障害者の5割超がヘルプマークを「知らない」との調査結果がある。新型コロナウイルスによるマスク着用など変化が見えにくい今こそ伝わるサインは必要で、関係者は浸透を期待している。

 大阪市東成区の市立東成屋内プールに、夢中で水をかき分けていく女性(28)=同市鶴見区=がいた。わずか1時間で25メートルプールを30往復。クロールや背泳ぎで計1・5キロを泳ぎ切った。がっしりとした肩幅は競泳選手のよう。スイムキャップにヘルプマークが付いてなければ、女性に重度の知的障害と自閉症があることも分からない。

 「障害のある子はみんなプールでは別人。脳性まひで車いす生活の子も、水の浮力で自分の行きたいところに自力で移動できる」。NPO法人「プール・ボランティア」(同市中央区)の事務局長、織田智子さん(56)は語る。

 「安心してプールに行ける」

 同法人が作成し、平成30年から無料配布しているヘルプマーク付きのスイムキャップ。きっかけは、障害者の親たちからの悩みを聞いたことだ。

 足を滑らせたり溺れたりする危険のあるプールは障害者にとってハードルが高く、女性の母親(57)も「水中にいると、陸上にいるときよりも周囲から障害者と気づかれにくい。これまでは子供が騒いだときに白い目で見られるのではと不安だった」と明かす。

 だが、マーク付きキャップをかぶることで、溺れたり暴れたりしたときでも、周囲がスムーズに手を貸してくれる。「安心してプールに行ける」と注文は殺到し、これまで配布したキャップは千枚以上に上る。

 女性は現在、同法人が開催する週2回の水泳教室のほか、一般のプールに出かけることもある。「周りに障害があると知ってもらえるだけで心強い」。女性の母親は生き生きと泳ぐわが子の姿を見守り、ほほえんだ。

 五輪パラで全国共通に

 ヘルプマークは平成24年に東京都が作成した。内臓の機能障害や義足、妊娠初期など、外見からは助けや配慮を必要としていることがわかりにくい人が援助を得られやすくなるようにするためだ。主に都内で使われていたが、東京五輪パラリンピックの開催が決まったことを受けて29年に日本産業規格(JIS)に追加され、全国共通のマークとなった。ただ肝心の障害者への浸透はいまひとつ進んでいないのが現状だ。

 民間調査機関「ゼネラルパートナーズ障がい者総合研究所」(東京都)が障害者379人を対象に実施した認知度調査では、全体の53%がヘルプマークを「知らない」と答えた。首都圏と比べ、その他の地域での認知度は低い。また、「知っている」と答えた人のうち8割近くが「利用していない」と答え、「認知不足により役に立たないと思う」「入手方法が分からない」などの理由を挙げる人が多かった。

 同機関の担当者は「周りの反応を気にして利用していない人々も多く、認知度だけでなく、社会全体の障害者への意識も変えていく必要がある」と指摘する。

 都によると、現在は全国45都道府県の自治体でカバンなどに装着できるヘルプマークを無料配布している。近年は災害時に使用するヘルプマーク付きのベストやバンダナが考案されるなど用途も広がっている。

 都の担当者は「新型コロナウイルス下では障害者が生活する上で困難な局面が多く、マークの必要性は高まっている」と話す。(中井芳野)

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