障害のある教員志望の学生をサポートしようと、奈良県教育委員会はオンラインで現役の教員に相談できたり学生同士で交流できたりする「全国障害学生支援ならネット」の運用を今年度から始めた。全国初の試みで全国の学生が参加できる。背景には、学校現場での障害者雇用が進んでいない実態がある。文部科学省も障害のある教員の雇用促進に向け、勤務実態を把握する全国調査を今年度に実施する。(藤井沙織)
「どういった支援が必要ですか?」。ならネットに登録した学生に、県教委の担当者がオンラインで問いかける。ならネットは、まず登録者(教員志望の学生)が必要とする支援の内容を把握。その上で、障害のある教員への相談につなげるほか、教育に関する指導とリポート提出、インターンシップなどを実施する。取り組み状況に応じ、登録者は同県の教員採用試験で1次試験の一般教養と集団面接を免除する。
教員として働くうえでのハードルを把握し、実効性のある支援にもつなげたい考えで、担当者は「不安もあると思うが、諦めずに教員を目指してほしい」と話す。今年2月から登録者を募集し5月に運営を開始。現在、県内外から10人超が登録している。
文科省の調査では、令和元年6月1日時点の各都道府県教委の職員全体に占める障害者の割合は、法定雇用率(法律上満たすべき割合)の2・4%(当時)に対して1・87%だった。職員の内訳でみると、事務職員は7・39%だったが、職員全体の約9割にあたる教員は1・27%にとどまった。
奈良県でも教員の障害者雇用率は低く、同調査時は1・41%だった。県教委は当初、県内の学生を対象にしたサポートを検討していた。だが、それでは対象人数が少なかった。また、障害の種別などによって悩みが異なることから、より多くの学生が情報交換できることを検討。その結果、ならネットの対象を全国に拡大した。
同省担当者は、障害のある教員の存在について「障害のある人に対する理解が深まるとともに、障害のある子供にとってのロールモデルにもなる」と指摘する。同省は今後、学校現場で行われている具体的な支援についての全国調査を実施。効果的な事例を全国の教委や教職課程のある大学と共有する方針だ。
子供の「できない」が分かる
大阪府東大阪市立桜橋小学校の安井隆(たか)将(まさ)教諭(32)は車いすで児童の指導にあたっている。「どこまでだったら話を聞きながらメモできそう?」。説明文を聞きながら大事なポイントをメモにとる国語の授業。安井教諭の問いかけに、3年の男子児童は教科書の映る電子黒板に線を引いて答えた。
教師になって2年目、6年の担任をしていた冬の平成26年1月、バイクで学校に向かう途中でトラックにはねられた。体がほとんど動かず「死にたい」とさえ考えたが、教え子がくれた千羽鶴を見て思った。「卒業式に出たい」。懸命なリハビリで出席を果たした。
30年4月に復職。だが脊髄を損傷し、脚や手が不自由になった。体育の指導や細かい板書などできないことがある。車いすでは大勢の児童の指導も難しい。不安が募ったが「市教委も、どんな立場なら復職できるか考えてくれた」という。
復帰最初の学校では特別支援学級の担任を務めた。昨春に転任してきた桜橋小でも、障害のある児童らが一部の科目を別室で受ける通級指導の担当になった。
どちらも児童数は少なく、障害特性に応じたきめ細かい指導が求められる。「できないことがある子供の気持ちは以前より分かる。それを強みにしよう」と考えた。桜橋小にはエレベーターがあり、空き時間にはそれを利用して校舎をめぐって児童に声をかける。「教室に居づらさを感じる子供が話しかけてくれる。車いすで目線が合うのがいいのかも」と笑う。
同小の羽(は)谷(や)幸司校長は「道徳観は生活の中で培われる。安井先生がいてくれることで、それを実践させてもらっている」と話す。
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「全国障害学生支援ならネット」の詳細は奈良県立教育研究所のホームページ(http://www.e-net.nara.jp/kenkyo/index.cfm/1,html)で確認できる。