まさかの法的トラブル処方箋

相続紛争を減らすために…“副作用”と対策を知って、躊躇せず遺言書の作成を (1/2ページ)

上野晃
上野晃

 お勧めできない“自筆証書遺言”

 3年前、相続法の改正がなされました。改正ポイントは複数ありますが、今回はその中で遺言書に関する改正についてお話ししたいと思います。

 遺言書の方式には、公正証書遺言と自筆証書遺言、そして秘密証書遺言があります。秘密証書遺言はちょっと特殊なので説明を省略します。

 公正証書遺言とは遺言者が公証人へ口頭で遺言の内容を伝え、公証人が遺言書を作成する形式の遺言を言います。遺言書としては非常に手堅い形式です。後々遺言書の効力をめぐっての争いは生じにくいです。

 自筆証書遺言とは、文字通り遺言者が自分自身で書いて作成した遺言書です。当然、書き間違いや形式上のミスが起こります。なので、遺言書の効力が無効になってしまうリスクも高くなりますので、われわれ弁護士としてはお勧めできない形式です。

 3年前の改正は、自筆証書遺言の作成と保管を簡便かつ確実にすることで、遺言書をより多くの人に作成してもらおうと考えてなされました。具体的には、相続財産目録については自ら作らなくてもよくなり、さらに遺言書を法務局で保管してもらえるようになったのです。

 「死」と向き合わない日本人の人生観

 では、実際に遺言を作成する人は増えたのでしょうか。今のところ、正確な統計上の情報はありません。しかし、私の皮膚感覚で言えば、利用者はさほど増えてないと思います。

 なぜ利用者が増えないのか。遺言書をもっともっと容易かつ確実に利用できるように制度を整えていけば、利用者は激増するのでしょうか。私はそうは思いません。私は、この国で遺言書の利用が増えないのは、遺言に対して日本人が持っているネガティブな感情があるからだと思っています。

 日本人は、「死」というものと向き合いたがらない傾向にあります。将来の老後のために熱心に貯金はするけれども、そのさらに先にある「死」とは決して向き合わない。刹那的な生き方とは対極になるようでいて、ある意味究極の刹那的な人生観のようにも思えます。

 さらに言えば、日本人は将来の揉め事を想定するのを嫌います。「信じ合う」ということの大切さを共有し合っている国民性と言えば聞こえはいいですが、果たして現代の日本人は本当に互いを信じ合っているのでしょうか。互いが信じ合うに足るだけの人間性を備えているでしょうか。この問いに自信を持って頷ける人は少ないでしょう。結局、多くの日本人は、「遺言書を書くなんて何となく嫌だな」というフワッとしたイメージだけで躊躇(ちゅうちょ)しているに過ぎないのです。

 遺言書作成の必要性

 離婚紛争同様、相続紛争は増えていると思います。これは単に高齢社会となって相続案件が増えたからという側面もあると思いますが、それだけとも言えないと感じています。

 一つは、相続法と実際の要請のギャップです。例えば、自営業者の方がお亡くなりになったケースでの相続では、日本の民法によると会社の株式もまた相続人で平等に分けられます。相続人全員が協力して会社経営にあたれるのであればそれでも良いのですが、そうもいかないことは多々あります。その場合、最終的に会社を売却しなければならなくなるケースだってあるのです。今の日本の法律は、平等主義が徹底されています。これは家族の資産を維持する上では、必ずしも良い制度ではないのです。このように相続法の規定と実際の要請のギャップがある場合に、この溝を埋める役割を果たすのが遺言書です。遺言書によって、いわば法で定められている徹底した平等主義を修正できるのです。

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