かんぽ生命保険の不正販売の報道をめぐり、NHK経営委員会が平成30年に当時の上田良一NHK会長を厳重注意した経緯を記した議事録が8日、開示された。一連の過程で浮かび上がったのは、番組に関する議論の不自由さだった。「既存の番組審議会などが機能しないなら、新たな組織が必要ではないか」と指摘する識者もいる。(森本昌彦)
問題の発端は、不正販売を伝えた「クローズアップ現代+(プラス)」が30年4月に放送された後、続編制作に向けて情報提供を呼び掛ける動画を番組ホームページなどにアップしたことだった。
日本郵政グループは「内容が一方的で事実誤認がある」として、NHKに掲載中止を要望。このやり取りの中で、統括チーフプロデューサーから「番組制作について会長は関与しない」という発言があり、郵政側から組織統治上の問題点が指摘されて、経営委が関わることになった。
経営委では、「番組の取材も含めて、極めて稚拙」「つくり方に問題がある」などの発言があった。それが放送法が禁止する経営委員の番組介入にあたる恐れがあると指摘され、問題は拡大した。だが、発言は放送済みの番組に対する意見であり、議論全体を通してはガバナンスに重きが置かれていた。介入とまでは言い難いのではないか。
同年夏の続編放送を断念したのも、経営委が問題を知る前で、続編は翌年に放送された。令和元年10月には、番組がホームページに経緯や見解を掲載し、時系列的に取材や制作への影響は「ありえない」と結論付けた。続編放送という結果と制作側の意識は、経営委の対応が介入には当たらないことを示唆している。
むしろ、今回浮かび上がったのは、経営委員会の委員が番組に関する経緯の確認などに伴って意見交換をしたことが批判されるという議論の不自由さだ。
NHKには優れた番組が多くある。その一方で、過去には内容に問題のある番組があったことも否めない。昭和天皇を裁いた民間法廷を取り上げた「問われる戦時性暴力」はその一つで、有力政治家が批判して社会問題化した。
確かに、大きな権力を持つ政治家や、許認可権を有する中央省庁の幹部らが番組を批判することは、放送の自主自律にとって望ましくない。であれば、まずはNHK内部で番組を徹底的に検証し、問題があれば改める姿勢が必要だ。
NHKには有識者で作る番組審議会が設けられている。だが、NHKの番組の問題点を指摘してきた神奈川大の小山和伸教授は「自浄作用が働いていない」と語る。「一般企業は製品の良しあしで企業体質が問われる。番組内容に触れないで、NHK改革は議論できない。今ある組織が機能しないのであれば、例えば経営委員や一般視聴者も混ぜ、番組をチェックする機構が必要ではないか」と話した。放送内容の自主自律と自浄作用は矛盾しない。むしろNHK改革に資するはずだ。