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なぜ日本はマイクロモビリティ“後進国”なのか? 普及に向け解決すべき課題 (2/2ページ)

SankeiBiz編集部

 新たなモビリティーに関する警察庁の有識者検討会は4月、新しい車両区分の方向性を示す中間報告をまとめ、(1)時速6キロ程度までの 歩道通行車(2)時速15キロまでの小型低速車(3)時速15キロ以上の既存の原付きバイク等 ─と区分。電動キックボードは小型低速車に区分され、都内で行われている実証実験では、公道走行時にヘルメット着用を任意とする経産省の特例制度を適用し、最高時速を15キロに抑えて実施している。

 諸外国の制限速度を見ると、多くは車道のほか自転車専用レーンを走行でき、時速20~25キロの範囲で定めている。マイクロモビリティ推進協議会の岡井代表は「車道を走行するモビリティとして実用化を目指す上では自動車との調和も欠かせない」として、制限速度 の再考を促している。

 クラファンで即日完売「電動三輪車」

 国内の法律や道路事情を考慮して登場した次世代のモビリティもある。川崎重工業が開発した 「noslisu」(ノスリス)だ。前2輪、後1輪の電動三輪車で、フル電動と電動アシスト付き自転車の2種類がある。クラウドファンディングでそれぞれ50台ずつ限定販売したところ、いずれも即日完売となった。

 運転には普通自動車免許が必要だが、ヘルメットの着用義務はなく、車検も必要ない。最高時速は40キロと原付きバイクを上回り、実用性も高い。充電1回あたりの航続距離は約65キロ。価格は税込み 32万円となっている。

 「家族のところに駆け付けたいときに1人で気軽に乗れる乗り物がない」。川重のプロジェクトリーダー、石井宏志さん(44)は以前、町で出会った高齢者の男性からこんな悩みを打ち明けられた。普段は「Kawasaki」ブランドのモーターサイクルの開発に携わるエンジニアだが、高齢男性の言葉に着想を得て、「モーターサイクルのノウハウを生かして誰でも手軽に安全に乗れるモビリティを作りたい」と、転倒リスクの少ない3輪のノスリスを開発しようと思ったという。

 これまでにないユニークな乗り物でありながら、日本の道路環境に適応させた点は、国産メーカーが手掛けるマイクロモビリティの強みといえる。

 電動キックボードをめぐっては、諸外国の導入事例では車道に加えて自転車レーンを走行場所として定め、歩行者・クルマから独立した形で安全な走行環境を確保している。

 国内でも、自転車専用レーンの整備が進みつつあるが、レーン上に自動車やトラックが路上駐車するケースも目立つ。欧米では、マイクロモビリティの“原型”ともいえる自転車を「車両」として明確に区分してきたが、日本では「車両」に位置づけられながら、徐行を前提として歩道の走行を可能とするなど、自転車と歩行者の区分があいまいだった経緯もあり、こうした環境の差が次世代マイクロモビリティ導入の高い壁となって立ちはだかる。

 諸外国では、すでに都市部を中心に自転車専用レーンが整備されており、電動キックボードが安全に走行できる環境が整っている。国内でも自転車レーンの整備が徐々に進んでおり、実証実験でも自転車専用レーンの走行を認めているが、自動車がレーン上に駐車していたりと、諸外国のように機能する環境になるには質・量ともにほど遠いの現状だ。

 自動車中心で道路が整備されてきた日本で、海外発のマイクロモビリティがどう変えることができるのか。世界水準のマイクロモビリティの普及を目指すには、海外の先進例を参考に道路環境や規制を見直しつつ、実態に則した適切なルールづくりが急務となっている。(後藤恭子)

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