ヘルスケア

防げ、接種の空白地帯 在宅高齢者は訪問・巡回で対応も

 新型コロナウイルスのワクチン接種で、外出が困難で接種会場に足を運べない高齢者の対応に自治体が頭を悩ませている。介護度の高い在宅高齢者には医師の訪問接種が模索されるが、人材不足やワクチンの使用期限など立ちはだかる課題は多い。こうした人は重症化リスクも高く、効率的に接種を進めるための試行錯誤も続いている。

 高齢者の移動支援についてはすでに各地で、対策が進んでいる。滋賀県東近江市では自宅周辺にバスが通っていないなど集団接種会場までの移動が困難な人向けに、無料の送迎タクシーを運行。東京都北区は要介護認定を受ける高齢者のうち、接種会場への移動が困難で、家族による送迎なども難しい場合、タクシー代の全額を負担している。

 一方、外出が難しい在宅高齢者の存在もある。北区は個別接種を担う医師らが高齢者宅を訪問して接種する形を検討しており、対象となる高齢者を約9千人と試算。個別接種と同日に訪問接種を行って余剰分を使い切ることなどを模索するが、課題も横たわる。

 1瓶6回分となる米ファイザー製のワクチンは原液を希釈してから6時間以内に使い切ることが必要。区の担当者は「医師らの移動時間、接種後に体調の変化を見守る経過観察の時間も考えた場合、時間内に接種を終えられるだろうか」と不安を口にする。

 広島県府中市も接種会場に来られない高齢者の自宅での接種を視野に入れるが、具体化はこれからだ。「今はまだ集団接種の稼働に注力せざるを得ない」と同市の担当者。市内の医療機関は通常診療を担いながら交代で集団接種に協力してくれており、「現時点でさらなる対応のお願いは難しい」と話す。

 接種の“空白地帯”を生まないよう、独自の取り組みを模索する動きもある。

 神奈川県大和市は集団接種と個別接種を補う方法として、6月から医師や看護師らのチームが交通の便が悪い地域などに出向く「別動隊」の運用を始める。訪問先に予定するのは、高齢者の居住割合の高い2つの団地。現地に接種会場を設けて進めていくという。

 千葉県松戸市は介護のデイサービスに通う高齢者について、利用施設での接種を検討している。協力事業所と巡回接種を行う医師を結びつけ、接種につなげていきたい意向だ。ただ行政サービスを受けずに家族が介護に当たっているケースなども考えられ、こうした高齢者の把握も課題だ。

 「巡回による接種は、地域内を短時間で回るといったスケジュール管理も重要になってくる。廃棄するワクチンを出さないという意識で進めている」。市の担当者は力を込めた。

■老人ホーム「情報なし」

 新型コロナウイルスワクチンの高齢者接種では、クラスター(感染者集団)の発生リスクなどを考慮し、高齢者施設を優先する自治体が少なくない。ただ、準備に当たる施設側の負担が大きく、自治体との連携不足で接種時期が見通せない地域もあり、関係者は不安を募らせている。

 「現場は通常業務に加え、接種に向けた対応に追われている」。福岡県内で有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅を複数展開する民間会社の担当者は、ため息交じりに語る。希望者は施設内で接種できるよう調整を行うが、スタッフらには苦労が絶えない。

 入居者に接種券の確認などを行うものの、住民票の登録地が施設所在地と異なる人もいる。接種券が手元になければ、自治体に問い合わせが必要。認知症が進む入居者には、離れて暮らす家族への連絡作業なども発生する。すでに施設内で1回目の接種を終えた人もいるが、「入居者全ての接種完了はまだ見通せない」と担当者は打ち明ける。

 有料老人ホームの接種をめぐっては、自治体の対応が後手に回るケースも報告されている。「全国有料老人ホーム協会」(東京)は4月下旬、準備に関する連絡がない地域もあるとして、国や自治体に事前協議の実施などを要望した。

 会員施設からは「接種場所、体制などについて全く情報がない。確認しても『調整中』としか回答がない」「スケジュールが不明確。事業所としてどのように段取りすればよいか、判断がつかない」といった声が寄せられているという。

 同協会の松本光紀(こうき)事業推進部長は「情報不足で、入居者や家族からの問い合わせに追われている施設も少なくない。自治体は他の高齢者施設と同様に、早急に接種体制を整えてほしい」と訴えている。(三宅陽子)

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