WHO(世界保健機関)は1989(平成元)年に5月31日を「世界禁煙デー(World No Tobacco Day)」と定め、喫煙しないことが一般的社会習慣となることを目指す活動を開始した。今年の世界禁煙デーのテーマは「Commit to quit(禁煙を約束しよう)」である。
WHOは世界禁煙デーのページで、「COVID-19パンデミックにより、何百万人もの喫煙者がたばこを止めたいと思っている。今日から禁煙を約束し誓約書にサインしよう」と、禁煙の誓いを登録するよう呼びかけている。喫煙者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいため、即時禁煙を求める強いメッセージである。そして禁煙挑戦時の「たばこを吸いたい」という欲求を抑えるための助言として、文末の表1に示す「Dで始まる4つの行動」を提示している。
しかし、個人の努力による禁煙が困難なことは世界共通であり、公的な支援の仕組みを持つ国も多い。その有力なツールが「Quitline」、電話による禁煙支援である。WHOのウェブサイトには、無料で利用できる世界の国々の「Quitline」の電話番号リストが掲載されている。
世界禁煙デーに関連して、日本でも平成4(1992)年から、厚生労働省が毎年5月31日から6月6日までの1週間を「禁煙週間」と定め、禁煙および受動喫煙防止に関わる普及啓発活動を実施してきた。今年の禁煙週間のテーマは「たばこの健康影響を知ろう!~新型コロナウイルス感染症とたばこの関係~」である。
禁煙週間に関連する禁煙啓発活動は県内でも毎年実施されてきた。表2に示す団体で構成される群馬県禁煙支援県民公開講座実行委員会が企画して、「群馬県禁煙支援公開講座・健康フェスタ」を実施してきた。昨年に引き続き、今年も人を集めるイベントは取りやめ、昨年度募集した禁煙川柳を利用した啓発活動が行われる計画だ。
ところで、現在、群馬県にも「蔓延(まんえん)防止等重点措置」が発令されている。そこで、今年の禁煙週間テーマの喫煙と新型コロナウイルス感染症の関連を簡単におさらいしておこう。
感染防止の基本は「3密回避」であり、「手洗いと手指の消毒」、そして「マスク着用の徹底」である。喫煙はマスクを外すうえ、喫煙室は一般に狭く密な状態になりやすく、他人の呼出煙を吸いこむ可能性が高い。呼出煙に含まれるエアロゾルには、たばこ由来の有害物質だけでなく、ウイルスが含まれる恐れもある。たばこを吸う際はドアノブなどに触れた清潔とはいえない手でたばこを口元に運ぶことになり、これも感染リスクの高い行為である。
WHOのウェブサイトには、毎年800万人を超す人がたばこによって亡くなっているとの記述がある。5月15日現在、新型コロナウイルス感染症で亡くなった人は世界で330万人を超えたが、たばこで亡くなる人の数は毎年、その倍以上もある事実にも注目してほしい。
喫煙はコロナ感染リスクを高め、感染時の重症化リスクも高める。愛煙家の皆さん、世界禁煙デー、禁煙週間を機に、誓約書にサインしませんか?
(高崎健康福祉大教授 東福寺幾夫)
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■表1 WHOによる喫煙欲求を抑えるヒント(4つのD)
1 Delay(喫煙の欲求を可能な限り我慢する)
2 Deep breathing(10回深呼吸しリラックスする)
3 Drink water(たばこをくわえる代わりに水を飲む)
4 Do something else to distract yourself(気晴らしに読書、散歩や音楽を聴くなど何かする)
=WHOホームページより(日本語は筆者訳)
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■表2 群馬県禁煙支援県民公開講座実行委員会の構成団体
群馬県医師会、群馬県歯科医師会、群馬県薬剤師会、群馬県看護協会、群馬県臨床検査技師会、高崎健康福祉大学(事務局:県健康長寿社会づくり推進課)