心不全という言葉は大半の人が聞いたことがあるでしょう。心臓のポンプとしての機能が衰えることで、息切れやだるさ、むくみといった症状が出て、日常の動作に支障をきたすものをいいます。心不全を患う人は現時点ですでに120万人いるとされますが、高齢化に伴い今後数十年の間に患者数が急増するのではないかと危惧されています。
心不全には生活習慣やそれに伴う病気が大きく関与しています。近年では若年者の肥満や生活習慣病が増えており、心不全もまた若年者で増えてきていることが報告されています。以前から高血圧や糖尿病、喫煙などは心不全を招く要因として知られています。こういった心不全の危険因子が、年齢によって及ぼす影響力の違いを調べた研究結果が最近英国の医学雑誌に報告されました。
これは欧米人約2万5千人を対象に、平均約13年の経過を観察したもので、心不全の発症は55歳未満で1%、55~64歳で5%、65~74歳で10%、75歳以上で18%となっています。55歳未満の人では、高血圧、糖尿病、喫煙、心筋梗塞の既往歴といった危険因子が、高齢者に比べてより強く心不全の発症に影響していました。例えば75歳以上で高血圧の人は、高血圧のない人に比べ1・4倍心不全を発症しやすくなるのですが、それが55歳未満だと3倍になります。こういった危険因子が75歳以上の心不全発症のうちの半分ほどに関係していますが、55歳未満では75%に関係していました。
心不全は高齢者に多いとはいえ、若いうちから生活習慣に注意しておくことが、将来的な心不全の予防につながります。体重や血圧、血糖値の管理、禁煙といったことが大切で、これらは特に若いうちに心不全になることを防いでくれます。
心不全を悪化させないためには塩分摂取を控えることが特に大切です。1日の塩分摂取量が6グラムを超えないのが目標ですが、平均的に私たちは1日10グラムを超える塩分をとっていることを考えると、相当な注意や工夫が必要となります。また、低栄養にならないことや、可能な範囲で運動を続けることも大切です。
心不全が悪化したときの兆候には短期間での体重増加、むくみ、動いたり横になったりしたときの苦しさといったものがあります。このような兆候がみられたら、早めに医療機関を受診しましょう。
(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)