久留米大学医学部(福岡県久留米市)の内科学講座研究グループが、メタボリックシンドロームの増加に伴って急増している非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療薬を発見したと発表した。海外で骨粗鬆(こつそしょう)症治療薬として使われているクロドロン酸が、脂肪肝や肝臓の炎症・線維(せんい)化を抑制する強い効果があることが動物実験で証明された。非アルコール性脂肪肝炎にはこれまで有効な治療薬はなく、今回の発見は、肝臓がんなどの肝疾患を大きく減少させる可能性があるという。(永尾和夫)
既存薬に新たな薬効
発見したのは、内科学講座の野村政壽教授、森山芳則客員教授、蓮澤奈央助教を中心とする研究グループ。
同グループによると、糖尿病や肥満などの生活習慣病に伴い、アルコールを飲まないのに発症する非アルコール性脂肪性肝疾患、いわゆる脂肪肝は、放置すると炎症や線維化といった非アルコール性脂肪肝炎へと進行。一部は肝硬変や肝臓がんになる。
体は、食物から摂取したエネルギーをいったんATP(アデノシン3リン酸)という化合物に変換して蓄える。しかし、ATPが細胞の外に分泌されると炎症の主な原因になる。同グループは平成20年、ATPの分泌が「VNUT」(小胞性ヌクレオチドトランスポーター)という「輸送体」によって制御されていることを発見した。そこでVNUTを持たないマウスを作り出したところ、このマウスは脂肪肝や糖尿病になりにくいことが分かった。
さらに、同グループは27年、VNUTの分子構造から推測し、VNUTの活動を阻害する物質がクロドロン酸であることを発見した。このため、クロドロン酸をマウスに与えて実験したところ予想が的中。マウスは脂肪肝が改善し、炎症や線維化も進行しなかったという。
クロドロン酸はオーストラリアやカナダで、骨粗鬆症治療薬として使われている。どの骨粗鬆症治療薬でもVNUTの活動を阻害するわけではなく、クロドロン酸のみが、ごく少量でも強力に阻害するという。
研究結果は3月4日発行の英科学誌「サイエンティフィック レポーツ」(オンライン版)に掲載された。
生活習慣病解明へ
同グループは今回の研究を基に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)に、医師主導治験を申請、国内製薬会社などの支援も得ながら、非アルコール性脂肪性肝疾患の新しい治療薬開発を目指す。クロドロン酸は既に海外で使用され、人に対する安全性が確認された既存薬で、今回の成果は新たな薬効の発見であるため、国内での臨床治験もしやすいとしている。
野村教授は「生活習慣病の影武者たちのメカニズムが解明されつつあり、新薬が開発されれば、肝炎や肝硬変にとどまらず、糖尿病や動脈硬化の治療にもつながる可能性がある」と語っており、今回の発見は、生活習慣病治療の武器にもなるものとして期待される。
非アルコール性脂肪性肝疾患にかかっている人は世界人口の25%に上るとされる。肝臓がんの要因として、これまで多かったウイルス性肝炎は治療薬の開発によって減少したのに対し、非アルコール性脂肪性肝疾患が原因の肝臓がんは今後10年間で2倍になるという予測もある。しかし、承認された治療薬は現在存在せず、食事療法による減量が唯一の治療法とされてきただけに、新薬の開発が急務となっている。