新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ蔓延(まんえん)防止等重点措置が5日から宮城、大阪、兵庫3府県で始まり、大阪などでは飲食店の感染防止対策をチェックする「見回り隊」が動き出した。感染の「第4波」阻止を目的に人海戦術を駆使し、大阪市内では約4万店舗を個別訪問する。
大阪市長「必要性を説明」
「飲食店を1店舗ずつ見回り、感染症に強い街づくりを実現することに力を貸してもらいたい」
5日夕、大阪市役所(大阪市北区)で行われた見回り隊の出発式では、吉村洋文知事がこう訓示。松井一郎市長も「対策の必要性を説明し、協力店舗を増やしてほしい」と続けた。
見回り隊は11日まで府市の職員計40人で構成。12日以降は民間に委託し、最大300人体制まで拡充する。府は営業時間の短縮要請への対応について店外から目視確認する体制を民間委託で構築しており、これを増強する形で見回り隊を運用する。
「マスク会食」、アクリル板確認
見回り隊は店内に入って時短要請への対応の確認のほか、「マスク会食」の徹底や、アクリル板、二酸化炭素濃度を測定するセンサーの設置状況などを確認。対策が確認できた店舗には「安全安心の証し」として金色のステッカーを発行、優遇措置なども検討する計画だ。
この日は2人一組の20班体制で、市内有数の繁華街を抱える北・中央両区を対象に、それぞれ10店舗を訪問。見回り隊の調査を受けた北区の居酒屋の男性従業員は「『マスク会食』を呼びかけてほしい」などと求められたといい、「マスク会食への協力は呼びかけづらいが、きちんと対策していきたい」と話した。
兵庫県尼崎市でも、市の職員や尼崎南署員ら15人で構成されたパトロール隊が阪神尼崎駅周辺の飲食店などを見回り、午後8時までの時短営業やマスク会食など感染防止対策の徹底を呼びかけた。
午後8時を過ぎると繁華街の飲食店のほとんどが店を閉めたが、営業を続ける店も。パトロール隊員が店内に入って「時短営業へのご協力をお願いします」と要請すると、店員らは「分かりました」と応じたが、パトロール隊から協力を呼びかけるチラシを受け取った同市内の会社役員の女性は(67)は「みんな緩んできている。効果が上がるとは思えない」と懐疑的だった。
飲食店「まるで取り締まり」
飲食店側からは「対策の証明になる」「取り締まりのようで不快」と、さまざまな声が聞かれた。識者は「行き過ぎると市民と行政の信頼関係が崩れる」と指摘した。
「協力金をいただく限り、できることはすべてしっかりと行いたい」。大阪の歓楽街・北新地にある「餃子鍋 A-chan(あーちゃん)北新地」の、高井昌昭オーナー(48)はこう話す。
見守り隊について、高井さんは「対策を行っている証明にもなる。いつ店に来ていただいても大丈夫」と好意的。「対策を行わずに協力金を受け取っている店を特定する、いい方法ではないか」とも指摘した。
一方、「取り締まりをされているようで不快」と憤るのは、大阪・キタの居酒屋の男性店長(48)。店は昨春の緊急事態宣言以降、協力金を一度も申請せず、深夜までの営業を継続している。重点措置の適用後も、午前0時まで営業する方針だ。男性は「飲食店の商売は本来自由なはず。飲食店だけが感染拡大の原因ではないのに、締め付けがまた強くなっている」と不満をあらわにする。
だが、アクリル板や二酸化炭素濃度を測るセンサーは店内に設置済みだ。店長は「常連客を離したくないので、営業方法は変えない。過料を科されたら従うつもりだ」と話した。
近畿大総合社会学部の松本行真(みちまさ)教授(都市・地域論)は、従来のコロナ対応に関し、「市民と行政が相互理解をしながら落としどころを見つけ、社会を機能させていた」と指摘。「これ以上、行政が締め付けをきつくすると、市民と互いに築いてきた信頼関係が崩れてしまう恐れがある」と懸念を示した。